毎月すごい時間残業しているものの、上司や先輩から言葉巧みに「そんなものは当然だ」といわれている人がいると思います。
最初残業代が払われないのはおかしいのではないか?と思っていても、徐々に感覚がマヒしてきて、何が正しいのかわからなくなってくることがあります。
多くのブラック企業では巧みな手法でサービス残業を隠し、残業代を払いません。今回は、ブラック企業によるサービス残業隠しの巧妙な手口と対策法について解説します。
ブラック企業に多い「サービス残業隠し」とは?
近年、横行しているブラック企業ですが、その定義のなかでも多いものとして長時間労働が挙げられます。
その分、しっかり収入に反映されるのであればやりがいも見出せます。
しかし、それがブラック企業であれば、がんばりが収入に結びつかない「サービス残業」であることも非常に多いのが現実です。
朝早くから夜遅くまで働き、気力体力ともに奪われ、どんどんそれが「普通だ」と思うようになってしまいます。
ですが、労働基準法第32条では、「使用者は労働者に休憩時間を除いて1週間につき40時間を超えて労働させてはならない。また、確実においては1日につき8時間を超えて労働させてはならない」と定められています。
これを、法定労働時間と言います。
会社が所定の労働時間を決めていたとしても関係なく、この労働基準法が有効となります。
つまり、週の労働時間は40時間(特例措置対象事業場においては44時間)を超えた分に関しては、必ず残業代を支払う義務が発生するのです。
しかし、ブラック企業と呼ばれる多くの会社がこの規定を守らず、言葉巧みに社員にサービス残業を強いているのです。
時期により忙しさが異なる事業の場合には、トータルの労働時間でこれを超えないようにする変形労働時間制などもあります。
しかし、時期を問わずいつでも大幅にサービス残業をさせられるのが、ブラック企業です。
サービス残業隠しの巧妙な手口
ブラック企業は巧みに社員をコントロールし、残業代というコストをカットして利益を上げようとします。
あなたの会社は、以下のような巧妙な手口であなたにサービス残業をさせていませんか。
「研修は仕事ではない」
研修や社員教育といって、勤務時間外・例えば終業後などに仕事を押し付けて「成長のためだ」などと言って業務をさせます。
社員が自ら希望して研修した場合は残業にはあてはまりませんが、会社や上司からの通達であった場合には、本来は残業とカウントされるものです。
「生産性のない移動時間は残業ではない」
営業職などに多いようですが、外回りの営業などで最後の客先から帰社する場合の移動時間をカットされるケースもあります。
通勤や出張、客先から自宅に直帰する場合は生産性のない移動時間とみなされますが、帰社する場合は、そのあとも仕事をするものとして見なされ、業務時間と捉えることができます。
「タイムカードはこちらで管理する」
上層部や幹部が、タイムカードなど業務時間を一方的に管理している場合です。
もちろん、正当に報酬が払われているのなら文句はないでしょう。
しかし、明細をひた隠しにして残業代を払っていない、という可能性もあります。
出退勤の時間を記録するなどして、給与明細などと照らし合わせて確認しておきましょう。
「能力がないから残業になるんだ」
明らかに会社の所定の時間ではやりきれない量の仕事を与え、厳しい納期を与えられてやむなく上司の指示から残業になったのに、それを能力不足と断定するパターンです。
自らすすんで居残ったなら残業にあたりませんが、上司の指示での上なら話は別です。
そこで「能力のない社員には残業代を払うことはできない」などと言われてしまうと、疲れ切ってしまった頭では、正常な判断ができません。
自信も無くしているため、「そうか……。自分は能力がないから、残業になってしまっているのだ」と、納得してしまうのです。
業務上のミスや損失を残業でまかなえ、という強要をする会社もありますが、いずれも自尊心を傷つけられて正常な判断ができなくなってしまいます。
「管理職には残業代は出ないよ」
労働基準法第41条では確かに、管理監督者に対しては残業代は支給されないと定められているのですが、その管理監督者というのは、
1)業務上の監督者としての役割
2)経営方針や業務遂行にあたって経営者と一体的な立場であること
3)自己の勤務時間に対して裁量を有する
4)役職手当などの優遇があること
という条件があります。
しかし実際には、管理職の仕事も権限もないのに、ただ働きだけをさせられてしまうことがあります。
フタを開けてみれば、一つの事業所や店舗に社員は責任者である自分ひとり、といった状況も珍しくありません。
いわゆる「名ばかり管理職」というものです。
「この業界はサービス残業は当たり前」
会社や上司が、「この業界はサービス残業が当たり前」という社風を作ってしまっていることがよくあります。
退社時間になったらタイムカードだけは押させて、その後すぐに帰ろうものなら翌日さらし者にされます。
あるいは、「会社に奉仕する精神はないのか?」などと、残業しないことは悪であるかのように植え付けるのです。
またそれを「やりがいである」などと言い、残業したくないと言いづらい雰囲気にしてしまいます。
「他の人や他の会社はもっと頑張っている」
ブラック企業勤めが長く疲れ切ってしまっていると、周りが見えなくなりがちです。
それでも「上司から周りはもっと頑張っている」といわれてしまうと、自分の頑張りが足りないと自分を責めてしまい、更にサービス残業の負のスパイラルへと落ちていきます。
「〇〇くんなんか、君より少ない給料で毎日23時まで頑張っている」などと、同僚や後輩と比較しプライドをゆすってくるのも手法の一つです。
違法なサービス残業はを改正するには
所定労働時間(会社が定めたもの)を超えた分に関しては、残業代を請求することができます。
かつ、上記に述べた法定労働時間を超過した時間には割増で残業代が発生し、それを支払わないのは違法です。
まずは、そのことに気づいて欲しいと思います。
そして、サービス残業を減らすとか、サービス残業代を取り戻すためにできることはあるのでしょうか。
まずは上司に相談
いきなり真っ向から戦うのではなく、あくまで「相談」というスタンスが大事です。
そもそも、自分に残業代が支払われていないのなら、上司にとっても良い職場環境・条件ではないはずです。
残業代だけでなく昇進など、何かに不満を持っている上司なら、味方になってくれるかも知れません。
「〇〇さん(上司)は今の状況をどう思われますか?」などと聞いてみて、上司の意識を探ってみましょう。
自分ひとりの意見ではないということを伝えるのも大切です。
例えば「自分だけでなく他の社員も疲れ切っていると思う」「自分は大丈夫でも、今後入社する後輩や部下が、キツすぎて長続きしないのではないかと心配」といったことを相談するのも一つの手です。
そうすることによって、自分だけが楽したいのではなく、会社の将来的な利益を考えてのことだということが伝わり、効果的になるでしょう。
勇気を持って「何かを変える」努力
相談できそうな上司が居ないとか、実際相談してみても、あしらわれてしまった場合はどうすれば良いのでしょう。
可能であれば、さらに上層の上司に相談してみましょう。
その際、一度は上司に相談したということも伝えておきましょう。
その後の社内での風当りが気になるかも知れませんが、違反を許す劣悪な環境の中で人間関係を大切にする必要はあるでしょうか。
その体質が変わらなければ、ずっと自分の時間や体力を削りながら仕事することになります。
勇気を持って何かを変えなければ状況は変わりません。
社内での改善が難しい場合は労基署へ相談
社内から改善を求めるのが難しいようなら、労働基準監督署への相談をおすすめします。
労働基準監督署は、労働基準法を違反する会社を監視・指導する立場にあり、また司法警察官の権限を持つため、悪質な場合は強制捜査や逮捕を行うこともできます。
在職しながら告発するのが難しい場合は、タイムカードなどの残業の実績のわかる証拠を持っておけば、匿名での相談が可能です。
ただ近年、サービス残業の実態が明らかになりつつあり労働基準監督署への相談件数が膨れ上がっています。
労働基準監督署の方も手一杯であるため「まずは自分で会社と交渉してみてください」と言われてしまうケースがほとんどです。
そのためにもまず、一度は自ら会社と交渉したという実績と、何らかの証拠を持っておくことが大事です。
自分で交渉したが、会社が支払いを拒否した、という実績があって初めて、労働基準監督署が動くことができるのです。
社風を変える努力より自分の権利を自覚
ただし、正直なところブラック企業は個人一人が動いたところで社風を変えないところも多いのが事実です。
残業代を申請して実際に支払ってもらった人の多くが、退職後に請求していたり、それをきっかけに退職したりしています。
このように、ブラック企業の隠蔽体質自体を良くすることは難しいものですが、これ以上気力や体力を搾取されないためにも、社員として働く人が自分たちの権利を自覚することが大切です。
さらに、ブラック企業の体質を変える努力や、サービス残業代を取り戻す訴訟を起こす人もいますが、これも大変な時間と労力がかかります。
それよりも、自分の権利と心身を守るためにも、きちんとした職場へ移動し、自分らしく働く努力をした方が良いです。