今の会社を、うつ病や適応障害などの精神疾患で休職している人がいると思います。
多くの人は復職を目指して療養しているはずですが、元の職場に戻ることにストレスを感じている人は、休職中、あるいは休職期間の満了と共に退職して、新たな道を選んでも良いのです。
今回は、精神疾患で休職している人が、今の会社を辞めたいときに考えるべきことを解説します。
休職中でも退職は可能
うつ病や適応障害になって会社を休職している場合、建前としては復職を前提として休職に入ることになります。
そして、休職規定がある会社は、休職とは「一定期間、解雇を猶予する会社側の恩赦」という位置づけで、休職制度を運用していると思います。
休職に入る前にこのような説明を受けている人や、上司などから「いつ復帰できるの?」などと言われている人は、休職している間には会社を辞めることはできないと思っているかもしれません。
しかし、休職中であっても、会社を辞めたいのであれば、何の障害もなく辞めることができます。
退職の意思表示をすれば退職できる
休職中であっても、会社側に退職の意思表示をすれば、退職することができます。
ただ、うつ病や適応障害などの精神疾患で休職しているのであれば、会社に出向いて行って退職の意を伝えるとか、電話をかけるといった気力がないケースもあるでしょう。
その際は、上司にあててまずメールなどで退職の意思表示をし、詳細は相手から連絡をしてもらう方法でも良いでしょう。
あるいは、会社の人と誰とも話したくないという人であれば、退職願を書き、郵送することで退職の意思表示をしたことになります。
日本の法律では、労働者側が退職をしたい場合は、退職を希望する日の2週間前に退職の意思表示をすれば、雇用契約はその日で終わるということになっています。
民法627条1項(期間の定めのない雇用の解約の申し入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から二週間を経過することによって終了する。
この民法の条項は、会社の就業規則や休職規定に何が書かれていたとしても、優先して適用されます。
つまり、もし万が一会社の休職規定に「休職した社員は、必ず元の職場へ復職しなければならない。それができない場合は、懲戒解雇の扱いとする」と書かれていたとしても、その条項は無効になります。
労働者は通常通り「自己都合退職」として、退職の意思表示をした日から2週間後に会社を退職できます。
退職を迷っている間は休職を続けること
しかし、あくまで退職の意思表示をするのは、あなた自身が「退職しよう」と本気で考え、決意が固まってからです。
そうでないときは、退職の意思表示をしてはいけません。
休職を続けるようにしたほうが良いと思います。
特にうつ病や適応障害などの治療中というのは、考え方が極端になりやすいため、重大な決断をしてはいけないと言われるはずです。
そのため、本当に退職をしようと決断する前には、家族や友人、主治医と相談してください。
会社側の人よりも、あなた自身を親身に思ってくれる人に意見を聞いてください。
その人たちが「もう、今の会社に復帰するよりも、退職して新たな道を選ぶほうが良いかもしれないよ」と助言してくれたのであれば、退職の決断をしても良いのではないでしょうか。
そうではなく「今は決断しないように」「もう少し様子を見よう」と助言されたら、それに従ってください。
時期がくれば、必ず正しい判断ができるようになりますから、焦らないようにしましょう。
「休職期間満了」で辞めてはいけない
休職していて、今の会社を辞めた後に、新たな会社に転職しようと考えている人は、休職期間満了で退職という扱いにならないように注意してください。
なぜなら、休職期間が満了したということが理由で退職すると、次の会社へ応募する際の履歴書などに、前職の退職理由を「一身上の都合により退職」と書けなくなるからです。
休職期間の満了で退職することを、法令上「自然退職」といい、定年退職などが代表的なものです。
これは自己都合退職と会社都合退職以外の退職という扱いになります。
そうなると、次の会社へ応募する際の履歴書には、法的には「休職期間の満了により退職」あるいは「就業規則の規定により自然退職」と書かないといけなくなってしまうのです。
このように書けば、応募先の会社からは「休職期間とありましたが、どのような理由で休職されていましたか?」と聞かれてしまうことになるでしょう。
「自己都合により退職」と書くことも可能ではありますが、後から本当のことが知られると、場合によっては経歴詐称と判断される可能性があるのです。
失業給付が受けられない可能性がある
また、休職中に会社を辞める人が「休職期間満了」で辞めてはいけない理由がもう一つあります。
それは、離職の際に発行される離職票の退職理由にも「休職期間満了により退職」と書かれてしまいます。
離職票は、雇用保険の失業給付金を受け取るための判断材料になる重要な書類です。
雇用保険は制度上、「働くことができるにもかかわらず、仕事がない状態の人(失業者)」に、失業手当金などを給付するというしくみになっています。
休職期間満了により退職と離職票に書かれてしまうと、「休職を続ける必要があるほどに心身の調子が悪く、働くことができないために退職した人」という扱いになります。
そのため、失業手当金を受給することができません。雇用保険上の「失業者」として認定されないからです。
具体的には、受給期間の延長を申請するようにハローワークの人から促されます。
「すぐには働けないだろうから、病気が治るまで受給できる期間を伸ばす手続きをしてください。今は、療養に専念して、就職活動はしてはいけません」と公的に言われてしまうのです。
こうなってしまうと当然、辞めたあと失業手当をもらいながら転職活動をしようと考えている人にとっては、痛手になることでしょう。
そのため、休職していて、かつ会社を辞めてできるだけ早く転職先を見つけようとしている人は、休職期間が満了するまで今の会社で休職し続けるのは、リスクがあるということを覚えておいてください。
休職中に退職するか、復職後に退職
上の述べたように、休職しているものの会社を辞めて、出来るだけ早く転職などで職を得たいと思っている人は、「休職期間の満了による退職」を選ばない方が良いでしょう。
休職期間中に、会社を辞めて、体調の回復と共に転職活動を進めましょう。
休職はしているが、復職して上司と顔を合わせるのがどうしても嫌だといった事情があるなら、その方が良いかもしれません。
あるいは、一旦復職してから退職するという方法もあります。
すでに会社を辞める決意をしていたとしたとしても、一旦会社に戻ってから退職の意思表示をした方が、引継ぎができるし迷惑をかけたことを謝ることができます。
休職中に辞めることを「不義理」と思い詰めないこと
休職中に退職をすることになれば、元の職場の人たちに不義理であると感じるかと思います。
しかし、不義理をしたくないために、無理やり復職するというのもおかしなものです。
もしどうしてもと思う人がいるのなら、電話でもメールでも良いので、ひとこと、療養しているときに感じていた「申し訳ない」という気持ちや、感謝の言葉を伝えましょう。
そして、「これからは別の道を歩み、元気にやっていくつもりです」と伝えたほうが、相手も安心するのではないでしょうか。
休職中に退職する人のことを、不義理であるとか非常識であるという人は確かにいることでしょう。
しかし、そのような他者の意見に振り回されるのはやめましょう。
個人的なお世話になった人には、上に述べたように、謝罪の気持ちを正直に話しせばそれで済みます。
一方、単に会社組織上の付き合いであった人には、それほどの心配をかけているものでもありませんし、あなたが退職したからといって多大な迷惑がかかることも通常ありません。
社員が一人いなくなるだけで、業務が回らなくなるのなら、そもそもその組織が正しく運営されていないだけです。
必要以上に責任を感じることはないのです。