不倫はどの時代のどの世にもありますが、社内の人と不倫関係にあると、ばれたときの混乱ははかりしれません。
社内不倫に熱中している間は、お互いに燃え上がっていて周りが見えていませんから、自分たちの恋愛は絶対にばれないと思い込んでいます。
しかし、たいていの不倫は、バレバレです。
熱愛中こそ、「社内不倫のリスク」などは考えないものですが、もし不倫がばれたら、最悪の場合クビになることもあります。
今回は、不倫のリスクと懲戒の判断基準について解説します。
不倫の何がいけないか?
そもそも不倫は個人的な恋愛なので、会社には関係ないのではないか?と考えている人もいます。
不倫は何がいけなくて、どうして隠さなければいけないのでしょうか。
配偶者に対して民法上の義務を負う
日本では、結婚した男女はお互いに貞操を守る義務があると民法に定められています。
もし一方が配偶者以外の人と性的関係をもったら、民法上の不法行為を犯したことになります。
配偶者にとって不倫は民法上の違法行為であるため、被害者側(不倫をされた配偶者)が、加害者側(不倫をした配偶者とその相手)に対して損害賠償を請求することができます。
会社は単なる不倫行為だけで処分できない
一方、不倫をしているというだけで、その人の所属する会社が、その人を罰することはできません。
法律には、会社側が不倫をしている社員を処分しても良いという条文はありません。
たとえば既婚の社員が配偶者と別の人と性的な関係を結んでいたとしても、そのことだけを理由に処分することは難しいといえます。
(不倫の相手が未成年であるとか、買春など違法行為であれば別問題)
社内不倫は会社が介入する余地がある
不倫の相手が、同じ会社の社員である場合、その行為は社内不倫となります。
この場合は、社外の相手との不倫とは話が違ってきます。
社外の相手と不倫をしているのであれば、その行為自体は社会的に許されないものであっても、会社から見れば私生活上の素行の悪さとして、それだけを理由に罰することは難しいです。
というより、会社側もそういった面倒な案件には関わりたがらないので、単なる「異性癖の悪い社員」と扱われるだけでしょう。
ただし、一定の要件に当てはまる場合は、会社側が該当者に何らかの懲戒を行うことが許されます。
会社側に不倫をとがめられる要件
不倫がばれたときに、会社側から罰せられる(懲戒解雇など)かどうかは、その行為が「職務に関係のある行為であるか」が問題になってきます。
およそ以下のような要件にあてはまる場合は、その不倫が職務に関係があるとみなされ、処罰される可能性が高くなります。
不倫相手が会社に関係ある人間である
いわゆる社内不倫は、ばれたから会社側から何らかの指導をされることになります。
社内不倫に限らなくても、不倫行為をしている人の相手が取引先や顧客など、会社の関係者である場合も同じです。
- 管理職の社員と部下の社員との不倫
- 取引先の担当者との不倫
- 顧客との不倫(学習塾の講師である社員が、学生の母親と不倫関係になった、など)
不倫関係を結んでいる相手が、会社に関係のある人物であれば、会社側にもその行為に介入して、やめさせようとする権利が発生することになります。
会社に関係ある人との不倫行為をしていて「この恋愛は、会社に関係ない。自由にさせてもらっても良いはずだ」とはいえません。
不倫行為が労働時間内に行われた
不倫行為が労働時間内に行われている場合は、その行為が職務に関係があると捉えられます。
労働時間内は当然仕事に専念すべきであり、その時間内に不倫行為をしているわけですから、仕事がおろそかになっているとか、指揮命令に従っていないといった判断で懲戒されるのは当然といえます。
- 労働時間中に社内不倫の相手と密室にこもる
- 労働時間中に不倫相手とメールやLINEで連絡を取り合う
- 外回り営業といつわり不倫相手とラブホテルで休憩
- 出張の際に不倫相手を同伴させ、出張を不倫旅行とした
これらの行為は、労働時間内の不倫行為として、職務に関係があるとみなされます。
職場の風紀・秩序を乱した
恐らく、どの会社にも就業規則の懲戒事由に「社内の風紀・秩序を乱す行為をしたとき」のように定められています。
社内不倫がばれるということは、この社内の風紀・秩序を乱す行為といって間違いありません。
そのため、明らかに不倫をしていることが周囲にばれていて、社員の誰かがそれを不快に思っていて会社側に密告したような場合は、この要件を満たすとして何らかの指導がされても文句はいえません。
- 職場で見つめあったり手を触れあったりして、周りの社員を不快にする
- 職場内で仲良くしたりケンカをしたり、不倫カップルの感情トラブルを頻発させている
- 不倫相手をひいきするなど、他の社員とあからさまな差別をする
- ケンカの最中や別れ話の後に、社内で険悪な雰囲気を作っているため、周りの社員が働きづらくなっている
上記のような不倫行為は、職場の風紀・秩序を乱しています。
会社がこの状態を放置すると、組織風土が乱れ、社員の離職が増えたり、社員が心地よく働く環境を作る義務を怠っていることになってしまいます。
公になったら会社のイメージを落とす行為
もし、社員の不倫行為とその相手のことが社会に公になったら、会社そのもののイメージや信用が失墜する可能性があるものは、職務との関係が強くなります。
- 既婚の社員が、取引先の役員の子女と不倫した
- 子どもの教育事業を営む会社の既婚社員が、生徒の母親と不倫関係を持った
- 主婦層への商品を扱う会社の既婚社員が、主婦とW不倫に陥った
- 役員レベルになっている既婚社員が、買春に近い行為をしている
- 高齢の既婚社員が、未成年の女性と不倫し妊娠させた
これらがマスコミに報道されたりネットで話題になったり、あるいは取引先など関係者に知られてしまうことがあります。
そうなった場合、会社の社会的イメージが悪くなり、かつ営業に支障が出るなど、経営そのものが悪化していくことが考えられます。
不倫という名のセクハラ
また、不倫行為者のうち一方は恋愛だと思っていても、事情から考えるとセクハラに該当するような行為であれば、会社が管理監督すべき案件となります。
- 部長職の既婚者が、秘書である部下と不倫関係にある
- 自社の既婚社員が、立場の弱い取引先の担当者に対し「自分と性的関係を持てば、おたくの商品を継続的に買う」と約束し、不倫関係を結んでいる
これらの行為は、不倫という形をとっていても、その実はセクハラに当たります。
セクハラは法律上の不法行為になるため、これを放置すると、会社側も加害者と共に責を負うことになります。
会社側からの妥当な処分とは
上記のような不倫行為の場合、もはや単なる恋愛ではなく、会社側から処分される可能性がある行為になります。
とはいえ、社内不倫を理由に、いきなり懲戒解雇をするなど、重すぎる処分を下すのは懲戒権の乱用ともいえます。
さらに、懲戒処分をするには就業規則にその旨が定められていなければなりません。
通常は、「懲戒の事由」という項目が設けられていて、以下のようなことが書かれていると思われます。
<懲戒の事由>
労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
- 正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及ぶとき
- 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき
- 過失により会社に損害を与えたとき
- 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき
- 性的な言動により、他の労働者に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたとき
- 性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の労働者の業務に支障を与えたとき
- その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき
参考:モデル就業規則 厚生労働省労働基準局監督課
不倫を理由に会社から懲戒される場合は、「素行不良や性的な言動により他の労働者に不快な思いをさせた」ということで処罰されることになります。
とはいえ、どの程度の行為に対し、どういった処分が妥当であるかは、それぞれの事件ごとに違うので一概にいえません。
会社にとって具体的な支障がある場合に、その支障の程度に応じた指導や懲戒が下される、という形が一般的ではないでしょうか。例えば以下のような形です。
「けん責」が妥当な不倫事例
事例)
管理職の既婚男性社員Aが、部下である未婚女性社員のBに対し執拗に関係を迫り、ついに不倫関係に至った。
次第に二人の関係は周囲にばれてしまったため、部署内の雰囲気が悪くなった。周囲の社員が会社の相談室に相談したため発覚した。
妥当な処分)
AおよびBを呼び出し、不倫関係の事実を確認し、双方に対し「けん責(叱ること)」をした。
また、業務に支障が出ているため直ちに不倫関係をやめることを指示した。
Bを、Aの部署から別の部署へ異動させた。
こういった場合は、実は管理職のAのセクハラ行為として発展した不倫関係といえます。
そのため、周囲の社員のためにも、会社側はAに対するセクハラ行為をやめるような指導と、AあるいはBの配置転換などをする義務が発生することになります。
会社側は、セクハラやパワハラなどが社内で起こらないように配慮する義務があります。
またそういった行為を見つけた以上、放置してはいけないことになっているからです。
ただし、この場合セクハラに近い行為とはいえ、管理職Aに対し不倫だけを理由に降格させたり、懲戒解雇したりといった処分は重すぎます。
また、女性である社員Bに対し「不倫がバレたんだし、迷惑だから辞めてくれないかな?」などと、女性側にだけ退職勧奨をするのは許されません。
懲戒解雇(クビ)になる場合
不倫をしていることを理由に、会社から懲戒解雇されるのは、どのようなときでしょうか。
前述のとおり、懲戒を行うためには就業規則にその旨が書かれていなければなりません。
就業規則には、多くは以下のような形で懲戒解雇になる場合について定められているはずです。
<懲戒解雇>
労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停 止とすることがある。
- 重要な経歴を詐称して雇用されたとき
- 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき
- 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、 回にわた って注意を受けても改めなかったとき。
- 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
- 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき
- 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く)
- 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき
- 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき
- 職責を利用して交際を強要し、又は性的な関係を強要したとき
- 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき
- 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき
- 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき
- 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき
- その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき
参考:モデル就業規則 厚生労働省労働基準局監督課
労働者にとって最大の罰である懲戒解雇は、就業規則でその要件が定められていなければ課すことができません。
かつ、何度も懲戒を受けているのに改善しないなど、違反行為が悪質であり治らないケースに限るということです。この参考条文であれば、7.8.9にあてはまる不倫行為であれば、懲戒解雇になっても仕方がありません。
懲戒解雇が妥当な不倫例
懲戒解雇が妥当な事例1)
管理職の既婚男性社員Aが、執拗に部下である未婚女性社員のBにアプローチし不倫関係に至った。会社にバレて、A、B双方に対し「けん責(叱ること)」の処分が下った。
それなのに、二人は引き続き関係をつづけた。
本人たちはバレていないと思い込んでいたが、周囲の人間から見れば二人がまだ性的関係があることは明らかであった。二人で会議室にこもって出でこない時があったり、Aとの遠方出張に同行するのは、いつもBであったりした。
そのため、部署内の雰囲気は悪くなり、次々と若い女性社員を中心に離職者が出た。
問題が起こる都度、会社は繰り返し二人にけん責処分をし、また、管理職Aには減給処分を下し、同時にBに対しては部署異動の配慮もした。
しかし、双方の不倫関係は解消されず、ついにBは未婚のまま妊娠してしまい、社内はおろか取引先にまでその情報がいきわたってしまった。
会社は、性的な潔癖さを求める主婦層をターゲットとした事業を展開する会社であるため、この事件は社内外の多くの人に悪印象を与えることになり、会社の社会的イメージも低下してしまった。
妥当な処分)
就業規則に基づき、AおよびBは懲戒解雇となった。
懲戒解雇が妥当な事例2)
X社の役員Cは、既婚者でありながら、出会い系サイトを利用し若い女性Dと交際を始めた。
Dは実は未成年であった。
しばらくしてDは、自身のブログに「X社の役員Cさんと不倫関係にある。Cさんは1回ホテルに行くと30万円もくれる」などと書き始めた。
Ⅹ社の実名が書かれていたことから、その記事を見つけた取引先や株主に知られることになってしまった。
「おたくの役員は、買春をしているのか?」「X社は、未成年と不倫するような社員を役員にしている」といった苦情電話が入るようになり、社内が混乱している。
妥当な処分)
就業規則に基づき、Cは懲戒解雇となった。
この事例のように、不倫行為だけでなく、具体的に会社側に対して支障が出ていることが要件となります。
不倫だけで懲戒解雇は重いが実例は多い
不倫が原因で懲戒解雇(クビ)にされてしまうには、上記のような要件が必要です。
そのため、不倫が一度ばれただけで速攻クビになる、というのは、処分が重すぎるといえます。
もし、不倫をしていると、ばれてクビになるのが怖いと思いますが、会社側に具体的に迷惑をかけていない場合は、一般的には「けん責」といって、叱られたり部署異動させられたりといった処分で済みます。
一方、不倫を理由に懲戒解雇の処分をする会社もありますが、これは他にその人を辞めさせたり理由が併存しているのかもしれません。
例えば人員が余っていて退職してほしいと思っているとか、不倫など面倒な問題を起こす社員には去って欲しいなどです。
処分を受けた社員も、自分が不倫をしていたという負い目があるので、たとえ重すぎると感じても処分をのんでしまうことがあります。
しかし、上記のように会社大きな迷惑をかけていないのに懲戒解雇は処分が重すぎですから、処分に不服であれば、会社に掛け合ってみるのも一つの方法です。
不倫で懲戒解雇(クビ)になる前に
会社にバレたら、上記のように会社に迷惑をかけてしまいそうな不倫をしている人は、本当に気を付けなければならないと思います。
中には、不倫カップルのうち女性の方を懲戒解雇処分にして、強引に問題をなかったことにしてしまう会社もあります。
そのため、特に女性は細心の注意をしてください。
後から、懲戒解雇処分を重すぎるといって訴えることは可能ではありますが、とても大変だしお金もかかります。
懲戒解雇処分を受けてしまうと、次の会社へ就職する際にも、前職の退職理由が懲戒解雇であることを隠すことができません。
その理由を聞かれたときに、正直に「不倫がばれてしまったので辞めることになりました」と正直に答えるしかありません。
あるいは嘘をついて押し切るか、別の懲戒理由を考えるかですが、いずれにせよ大変不利な状況になってしまいます。
そのため、できるだけ早く不倫は解消したほうがいいでしょう。
それができないのであれば、どちらかが会社から離れて、少なくとも社内不倫の状態ではないようにしておくべきです。
不倫は人生を破滅させるといわれますが、本当のことです。
職を失い再就職もしにくく、収入が途絶え家族を失う可能性もあります。
社内不倫がすでにバレて、会社から何度も指導を受けている人は、特に真剣に考えてください。
「不倫は悪いといったって、大人同士の恋愛なんだから自由にする権利があるし、会社に何か言われる筋合いはない」などとは、主張できないのです。
相手と別れることができないのであれば、働く場を変えて、懲戒解雇されることだけは避けるように配慮してほしいと思います。