退職時に転職先を聞かれても話してはいけない理由と適切な答え方

円満退職と退職前後

退職する際に、上司から「転職先が決まっているなら教えて」などと聞かれることがあると思います。この場合、答えたくなければ答える必要はありません。

今回は、退職時に転職先を聞かれても話してはいけない理由と適切な答え方について解説します。

転職先は伝えない方が良い

転職を検討しているために退職する人は、会社側から「転職先は決まっているなら教えて欲しい」と言われることがあるようです。

転職先が決まっている人であっても、まだ決まっていない人であっても、この質問に答える必要はありません。

もちろん、あなたの個人的なことを、誰にどこまで話すべきかは自由に選べますから、話しても良いと思えば話すのも良いでしょう。

ただし、退職後の予定について話してしまうことには、以下のようなリスクがあります。

退職後の予定にケチをつけられ引き止められる

基本的に、社員が自社を辞めて、別のキャリアを選ぶことについて、良く思う人は多くありません。

心から親身に接してくれる同僚や先輩などであれば別ですが、会社側の立場に立つ人(上司など)は、あなたの退職後の予定について、心から応援してくれるとは限りません

そのことを肝に銘じておく必要があるということです。

退職後のことを正直に話せば、「退職して起業するなど、君には無理だよ」「退職して〇〇業界に転職をしようだなんて、君のキャリアは終わりだよ、うちに残った方がいいよ」などと言われ、引き止められるかもしれません。

転職先へ情報が洩れる可能性

もし、すでに転職先が決まっているとしたら、あなたの情報が転職先へ悪い意味でもれるかもしれません。

世の中には色々な人がいます。

あなたの退職に対して悪意を持つ上司や同僚などが、転職先の会社に対して「彼(彼女)は、仕事上のトラブルが多く、使い物にならない人材であった」などの情報を、匿名で流すということも起こり得るのです。

実例ですが、ある会社に転職が決まった人が、元上司からの嫌がらせで転職を断念したケースがあります。

Aさんは、上司から執拗なパワハラを受けていたため転職活動をし、やっとのことである会社から内定を得ることができました。

そして、退職願を出すときに、Aさんはパワハラ上司に「〇〇社に転職するので、辞めます」と言ってしまいました。

するとその後、そのパワハラ上司は転職先の会社のホームページに設置してある「お問合せフォーマット」から、ネットカフェを経由して、Aさんの悪い噂を匿名で送ったのです。

その後、転職予定の会社からAさんに対して「匿名ではありますが、あなたについてのメールが来ました。どなたかの嫌がらせ行為であるとはわかりますが、そのような行為をされてしまうという、〇〇さんのお人柄に若干不安を感じている次第です」という連絡が入ってしまいました。

そのため、Aさんはせっかくの機会ではありましたが、内定を辞退しました。

このような悪質な嫌がらせをされることは、確かに稀ではあります。

また、悪質な嫌がらせの犯人を問い詰め、証拠を集め、裁判を起こせば、勝訴するかもしれません。

ただ、それも大変な労力が要るものです。

今の会社の雰囲気を見て、上記のような非常識なことをしそうな人がいるのであれば、決して転職先や退職後の予定を話さないように、自分を守りましょう。

転職先や退職後の予定についての答え方

会社側から、転職先の会社名や退職後の予定について聞かれたら、どのように答えたら良いでしょうか。

例えば以下のようにしてみましょう。

現在まだ、転職活動をしているところです。

そのため、どの業界のどの会社に転職をするかは、決まっておりません。

いくつか応募しようと検討している会社はありますが、詳細は全く未定です。

今後については、決定次第お伝えいたしますが、今のところ、会社名や職種等は申し上げられません

今まで大変お世話になりましたが、今後のことを考え、新たな道を歩もうと決意いたしました。

これから転職をして新たな企業にてキャリアを継続していくことを考えてはおります。

しかし、転職だけではなく、フリーでの活動や、まず資格を取るなど、色々な選択肢を模索している段階です。

退職だけを先に決意し今後のことをお伝えできないのは心苦しいところですが、今のところこの程度しかお知らせできることはありません。

退職後になるかとは存じますが、決まり次第必ず、今までのお礼もかねてお知らせしますので、ここではご容赦いただきたいと思います。

このように、今のところ未定であるため、伝えることができない、という形にしましょう。

「言う必要はない」というスタンスだと角が立ちますが、「決まっていない」「決まり次第必ず伝える」という形で逃げることができれば、それほど食い下がってくることもないでしょう。

ここで、「親の介護」「体調不良で……」など、全くの嘘をつくと、むしろ会社との関係が悪化します。

「転職活動を含めたキャリア選択をしているが、詳細は未定」としておくのが、一番無難な答え方です。

退職願に会社独自の書式がある場合

会社によっては、退職願に独自のフォーマットを採用していて、強制的に「退職後の予定」を書かせるようにしている会社もあります。

また、「退職時誓約書」などを書かせるように仕向けてきて、「退職後は〇〇に転職する予定」などを強制的に書かせようとするところもあるようです。

そのような時に、どう対応したらよいのかを覚えておきましょう。

退職願の「転職先」などの欄は空欄で良い

退職願のフォーマットに「転職先」あるいは「退職後の予定」「退職後の連絡先」などを書く項目があったとしても、その部分は空欄にして提出しましょう。

退職予定の人に「雇用保険の手続き上、次の会社名が分からないと困る。国の機関に提出する書類に不備が出てしまう」と告げて、無理やり転職先を聞く会社もあるようです。

しかし、雇用保険に限らず、健康保険や厚生年金などの手続きで、次の会社名を報告するといった手続きは一切ありません

また、「退職時にはその後の予定を会社側に伝えること」と就業規則に定められているから、きちんと報告せよ、と迫ってくる会社もあるようです。

しかし、そのような就業規則があったとしても、その規則に従わないからといって、違法状態になるようなこともありません。

退職願のフォーマットは自由

会社側から規程のフォーマットで退職願を書くようにいわれていたとしても、それに絶対従わなければならないわけではありません。

役所の書式ではありませんし、そもそも退職願というのは、あなたが自由に用紙を選んで、自由に書いて良いものです。

ただし、一定のマナーがあるため、一応「このような書き方をすると、角も立たないし、マナー違反にはならない」というルールがあるだけです。

そのため、会社規程のフォーマットを使いたくない場合は、以下を参考に、自分で書いて提出すれば問題はありません。

退職願に記載すべき内容と例文

退職願

平成〇〇年〇月〇日

株式会社〇〇

代表取締役社長 〇〇様

株式会社〇〇 〇〇部〇〇課

氏名 

私事、

このたび、一身上の都合により

来たる平成〇〇年〇月〇日をもって退職いたしたく

ここにお願い申し上げます。

以上

・退職願は、本来提出する「義務」はありません(口頭での退職の意思表示があれば、退職することができる)

・縦書きでも良いが、最近は横書きも増えているので、どちらでも良いです

・退職理由は、どのような事情があっても「一身上の都合」で良いです

「退職時の誓約書」を書かされそうな場合

また、「退職時の誓約書」「秘密保持契約」などの一項目に、退職後の予定として転職先名を書かせるといった会社も一部あるようです。

このような書類にも、転職先名や退職後の予定を書く義務は、法的にはありません。

会社側がこのように退職時に何等かの誓約書や秘密保持契約を締結するのは、競合(同業他社)に転職し、ノウハウを盗まれたり営業妨害をされたりすることを防ぐためです。

そのため、「退職した後に、営業妨害をするような行為はしない」という契約にはサインする必要があるかもしれませんが、退職後に入社する会社名まで申告する義務はありません。

もし、退職時の誓約書の一項目に「転職先名」「退職後の予定、連絡先」といった記入欄があっても、そこには「未定」と書いておけばかまいません

競合(同業他社)への転職禁止の場合

会社側から「うちは、就業規則にて同業他社への転職は禁止しています。同業への転職ではないかを確認する必要があるから、会社名を言ってください。同業他社への転職は違法だし、もし後からばれたら、訴えますよ」というようなことを言われる人もいるようです。

このように言われても、あなたが今後同業他社へ転職する予定がないのであれば、「未定」と答えたら良いでしょう。

退職時に「競合(同業他社)へ、今後〇年転職しないことを誓います」という誓約書を書いても問題ありません。

あるいは、このような誓約書にはサインしないという意思表示をしても問題ありません。

退職した後に、自由に仕事を選ぶことができることは、憲法で保障されている基本的権利だからです。

「競業避止義務」とは

退職する社員に対し、競合会社への転職を禁止することを「競業避止義務」といいます。

就業規則に決められていたり、入社時や退職時に誓約書をかかされたりする場合があります。

ただし、競合会社への転職禁止は無制限に制約されるわけではありません。あくまで合理的な範囲でしか、転職先を制限できません。

「合理的な範囲」については専門家によっても意見がまちまちで判断は難しいものです。

ただ、退職した人の「職業選択の自由」を縛るものであるため、適用される人の範囲はかなり狭いです。

例えば、「高度のノウハウを持っているスペシャリストについては、退職後1年間に限り、〇〇県の競合に転職することを禁じる。そのためには、代償措置として、退職金に一定の手当てを上乗せする」といった形です。

そのため、「誰であっても今後ずっと競合他社へ転職してはいけない」とか「日本全国の競合他社には転職してはいけない」というような、広範囲にわたる規制はできません。

退職した人の職業選択の自由を、やみくもに制限する規則は、無効になります。

「同業他社に転職しないとサインして」と言われたときでも、「転職するかどうかも未定」「同業に転職する予定はない」としつつ、誓約書にはサインしなくてかまいません。

あるいは、競合避止義務の根拠となる就業規則を見せてもらい、「サインする前に専門家に確認させてほしい」と伝えましょう

地域の労基署や労働相談を行っているところに、就業規則のコピーを持っていき、「同業への転職を制限されているが、合理性はあるか」を聞くようにしてください。

転職先や退職後の予定を隠すのは「非常識」ではない

真面目な人は、退職した後の予定を隠すことが、会社に対する裏切りであり非常識であると考えてしまいがちです。

あるいは、退職後の予定がわからないと公的手続きに支障が出ると思い込んで、律儀に会社名を告げてくれる人もいます。

しかし、その必要は全くありませんし、むしろ今後のことを考えると危険なことであると認識しておきましょう。

転職先が決まっている人は、無事に入社してしばらくするまで、前職の人にその会社名などを言う必要はありません。

非常識でもありませんし不義理でもありませんから、自分の身をきちんと守ることに注力しましょう。

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