ブラック企業であるかそうでないかは、求人情報からある程度見分けることができます。
ブラック企業は「自社が労働環境が劣悪な会社である」とはわからない方法で、求人情報を出しています。
その会社の採用ページや、求人誌、求人サイトを見ると、ブラック企業に特有の雰囲気やキャッチフレーズを見つけることができます。今回はこれらの雰囲気・キャッチフレーズについて解説します。
若い社員が大勢で笑顔、ガッツポーズ!
ブラック企業の求人情報や採用ページは、不自然なほどにテンションが高いです。
若い社員が大勢集まって、笑顔でガッツポーズをしていたり、飛んだり跳ねたりしている写真が載っています。
さらに背景には、さまざまな吹き出しやポップ画像が散りばめられています。
あるいは経営者や役員らしき人が大々的に登場し、同じくガッツポーズをしていたり大きく手をひろげて「包容力」「成功者」らしき雰囲気をアピールしていたりします。
これらは、「勢いよく成長していて明るくやりがいのある会社」と印象づけることによって、経験に乏しく、都会的な仕事にあこがれている若い人材からの応募を集めているのです。
「幹部候補」「将来は経営者」「20代で部長」
求める人材のレベルが高くないのに、「幹部候補」としての募集や、「将来的には独立し、経営者になることができます」などを標ぼうする会社があります。
同じく、「20代で部長職を担当してもらいます」「研修後、すぐに店長として活躍できます!」というフレーズにも注意が必要です。
このように、若年層で入社間もない社員に役職を簡単に与えるなどということは、通常の会社組織では行いません。責任者という役割を担うには、最低でも5年、通常は10年~15年の経験が必要だからです。
しかし入社後すぐに、あるいは20代などの若い人に役職を与えるということは、会社組織体系が未熟であったり、名ばかり管理職を与えて酷使したりするブラック企業の可能性があります。
「役職」というのは私たちにとって魅力のあるものです。そのためブラック企業は、それらを餌に「権力を持ちたい」と思う応募者の気持ちをくすぐり大量に人材を集めます。
しかし実態は、「名ばかり管理職」にしておいて残業代を払わずに酷使したり、実態は労働者であるのに「経営者として独立している」ということにして、社員としての身分をはく奪したりする会社もあります。
「高収入」「頑張った分だけ報われる」
高額商品の営業や運送・配送業に多いようですが、高収入であることを大々的にPRしている求人も、ブラック企業である率が高いです。
「当社社員の平均月収は50万円」「20代未経験入社なのに、年収1000万達成」など、給料が安いことを不満に思っている転職希望者の心を動かすキャッチコピーが、あちこちに散りばめられています。
営業成績によって支払われる給料である「歩合制」であるケースが多いのも特徴です。
これらの会社は、実際に成果が出せるやり手の営業パーソンや、体力があって長時間働ける人であれば、その働きに応じた高額の給与を得ることができると思われます。
当社平均月給50万円というのも、20代未経験で年収1000万円達成した人がいるのも、全部ウソというわけではないと思います。
しかしこういった会社の中には、体力とやる気がある人を一定期間酷使し、成果があげられなくなったときに離職させるという手法をとるところもあります。
ノルマがきつく、クリアできる人は大々的に評価され高給をとれるものの、ノルマクリアできない人は辞めさせられるという仕組みになっているのです。
「夢がもてる」「成長できる」「やりがいがある」
「夢を持てる仕事です。成長ややりがいはハンパないです!」といったように、抽象的な言葉を強調している求人があります。
実際には、さまざまなキャッチコピーが使われているので、「夢」「希望」「成長」という言葉で表現されていないものもあるかもしれません。
ただ、実態のない精神的満足が得られることをアピールしているのはブラック企業の特徴です。
夢ややりがいは仕事をするうえで重要なモチベーションではあります。ただ実際には、むしろ「待遇や安定性は保証しない」という含みをもたせているケースの方が多いのです。
同じく、「世界から貧困をなくす」「〇〇で世界を変える」「子どもたちすべてに笑顔を」など、一企業にしては壮大すぎるスローガンを押し出している会社も注意が必要です。
こういった壮大なメッセージを堂々と発信している会社は、2つのパターンがあります。
1つは、「「耳障りの良い言葉を押し出して、自社の実態を隠そうとしている会社」です。もう1つは、「本気でそのような実現不可能なテーマに取り組んでいる経営者がいる会社」です。
経営者が誇大妄想的であると、そこで働かされる社員には非常識な活動や負担を強いられる可能性があります。
アットホームな雰囲気
求人情報の目立つ場所に、社員らしき人たちが集まって飲み会をしていたり、「バーベキューやキャンプに行ってきました」といった写真が載っていたりする会社があります。
このような企業では、「社員は和気あいあいです」「何でも相談しあっています」「社員は、家族含めて会社の一員です」などのイメージが押し出されています。
自社のことを「我が家」と呼んでいる会社もあります。
このように会社に所属する人たちを家族に見立てる「アットホーム」を強調する会社にもブラック企業が潜んでいます。
私たちが持つ「暖かい人たちの集まりに所属したい」という基本的欲求に訴えかける求人広告です。
若く経験不足な人や、地方から大都市へ働きにくる人たち、あるいは新しい場所で孤独に頑張らなければならない人の「不安」を刺激しているのです。
アットホームな雰囲気を主張する会社の実態は、「残業が多く生活時間のすべてを会社で過ごさざるを得ない」「家族ぐるみで会社を支えさせられる」「休日などのプライベートも拘束される」「経営者・上司の家庭の雑事に使われる」といったことが考えられます。
実際、アットホームを標ぼうしているある会社では、経営者の家族旅行に同伴(運転手)させられたり、取引先の接待に妻を同伴させられたりなどする社員がいます。
アットホームな社風が大好きで、プライベートも含めて会社と同化したい人には苦にならないかもしれません。
しかし、普通に仕事とプライベートを分けて仕事をしたい人は、注意しなければなりません。
「少数精鋭」「すべての仕事を任せます」
「当社は少数精鋭です。できるようになるまで懇切丁寧に指導し、一人前にします」「自分で企画できます」「あなたの仕事のプランナーは、あなた自身」などといったアピールをしている会社もあります。
求める人材の条件はそれほど高くはないのに、このような「少数精鋭で思い通りに仕事をすることができます」と謳っている会社にもブラック企業が含まれます。
このような会社では、人員が少ないため、一人当たりの責任業務が多く長時間残業を強いられることがあります。
ターゲットにしている人材は、ある程度前職での実績があり、自信があり、自分の力を試してみたいと考えている若い人です。
こういった上昇志向が強くプライドがある人に訴えかける求人広告を作り、採用して酷使することを狙っているのです。
これらの会社では、実際に一人に任される仕事量は多く、責任体系も組織だっていないため、ある程度能力があり体力気力に自信がある人には好きなように仕事ができて良いかもしれません。
さらに給与額も悪くないケースがあり、上手く適応できればやりがいはあるでしょう。
しかし「少数精鋭」「入社した人にすぐ仕事を任せる」というのは会社組織として未熟であり、マネジメント思考が乏しいことの裏返しです。
さらに、これらの会社にはきちんとした教育・研修体制は無いと思っていたほうが良いです。また、長期間安定して勤務し続けられるかという部分で不安が残ります。
未経験OK、学歴不問、転職回数多い人もOK
未経験OK、学歴不問など、条件を緩くすることで多くの人材を募集している会社は、人を単なる労働力と考えていることがあります。
未経験の仕事にチャレンジするのは誰もが不安です。そういった応募者の心理をついて「未経験でも会社が全力でサポートするから大丈夫」としています。
これらの会社における仕事は、実際に未経験であってもできるような単純作業など、長年勤務してもスキルアップには繋がらないものがあります。
しかし単純作業であっても仕事量が多く対応時間が長いようなものは、一定量の労働力が無ければ成り立ちません。
そのため、未経験者や学歴にコンプレックスを持っている人、転職回数が多いために採用先が見つけづらい人を集め、労働力化しようとしています。
また、「学歴の高低なんか当社では全然関係ありません」など甘い言葉を使うのも、ブラック企業の特徴の一つです。特に「自分には経験がない」「学歴がない」「転職がうまくいかない」といった自信がない状態の人は気を付けなければなりません。
「若手が大活躍」「人物重視」「明るい社風」
若い人たちの元気な写真と共に、「若手が活躍している」や「やる気がある人はどんどんチャンスを与える」など、社風が明るいなどをPRしている会社があります。
これは、離職率が高いことの裏返しであることが多く注意が必要です。つまり、若くなくなる年齢になったら辞めざるを得なくなる会社ということです。
あるいは体力があり楽観的な性格の人でなければ務まらないような、ハードワークを強いる会社であることもあります。
「明るい」「楽しい」などの表現は、精神主義や気合重視を言い換えただけかもしれません。
「自信のなさ」「不安」「欲」をくすぐる求人に注意
ブラック企業的要素を持つ会社の求人情報には、共通のものがあります。それは、転職をしようとしている人たちの自信のなさや不安、欲望をくすぐるような内容になっているということです。
「楽な仕事」「高収入可能」は、簡単に稼ぎたいという基本的な欲に訴えるものです。「アットホーム」というのも孤独という不安に訴えかけていますし、「未経験でも大丈夫」も、経験が乏しいことに劣等感を持つ人をくすぐるワードです。
「幹部になれる」「将来独立できる」なども、権限が欲しいとか人に使われるのは嫌だといった、転職希望者にありがちな心理を利用しようとしているのがわかります。
上記のように、私たちの不安や欲望を刺激する求人情報を見つけたら、それに影響されすぎないように注意して、勤務条件や給与面などを冷静に分析するように注意してください。
また、転職先を選ぶときには、同時に自分自身とも向き合ってほしいと思います。
「自信がない」「たくさん稼ぎたい」という不安や欲望を持つことは悪いことではありません。
しかし、きちんと自分でそれらの気持ちをコントロールできていないまま転職活動をしていると、あなたの不安や欲望などの心理を利用されて、思わぬ罠にひっかかってしまうことがあります。
特に転職活動中は、前職や現職で上手くいかないことも多く、心理的には自信がない状態になりやすいものです。
さまざまな求人を見ているとどれもこれも魅力的で可能性に満ちているように感じるのもわかりますが、自分の不安や欲としっかり向き合いながら、冷静に正しく求人情報を読み取るようにしてください。