パワハラやセクハラの被害に遭ってやむなく退職した人や、労働環境が劣悪なブラック企業から、追い出されるように辞めさせられた人がいると思います。
このような人は、雇用保険の失業給付が手厚く支給される可能性があります。
今回は、パワハラ被害や劣悪な労働環境に耐えきれず、やむなく失業者となった人の雇用保険の受給について解説します。
ハローワークは労働者の味方
会社側の都合(倒産など)が原因で失業した人には、雇用保険の失業等給付が手厚いことは良く知られています。
一方、自分の都合により辞めた人は、雇用保険の給付に3か月間の給付制限期間があったり、給付日数が少なかったりと、会社都合退職の人よりも不利です。
特定受給資格者および特例理由離職者(会社都合扱いの退職者を含む)の所定給付日数
給付制限は無し 一般の受給資格者(自己都合退職者) 3カ月の給付制限あり 引用:厚生労働省 職業安定局 |
このように、一般の受給者よりも会社都合で退職した人の方が、手当が充実していて、さらに給付制限期間の3か月を待たずに受給することができます。
しかし、パワハラ被害に遭った人や労働環境が劣悪でやむなく失業した人は、ハローワークでそのことを証明することができれば、会社都合退職の人と同じく、「特定受給資格者」として、手厚い給付を受けられる可能性があります。
このケースに当てはまるか否かは、ハローワークの窓口で判断します。
あなたがすでに退職願いを書いてしまっていて、自己都合退職扱いになっていても、ハローワークに相談すれば、「特定受給資格者」に認定してもらえる可能性があります。
「特定受給資格者」とは
特定受給資格者とは、「倒産」や「解雇等」により、「離職を余儀なくされた人」のことをいいます。
倒産はイメージしやすいかと思いますので割愛しますが、問題になるのが「解雇等」です。この「解雇等」の要件は以下のようになっています。
1)解雇により離職した者(懲戒解雇以外)(例:業績不振による整理解雇で辞めた)
2)労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者(例:最初に決めた労働条件が違うから辞めた) 3)賃金の額の3分の1を超える額が支払い期日までに支払われなかった月が引き続き2ヵ月以上となったことにより離職した者(例:2ヵ月間給料未払いで辞めた) 4)賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下したため離職した者(例:大幅に減給されたので辞めた) 5)離職の直前3か月間に連続して労働基準法に基づき定める基準に規定する時間(各月45時間)を超える時間外労働が行われたため、または事業主が危険もしくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指導されたにもかかわらず、事業所において当該危険もしくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者(例:残業が多すぎなど、法令違反の労働環境の会社を辞めた) 6)事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者(例:遠方への転勤命令、全く未経験職種への配置転換など、嫌がらせが原因で辞めた) 7)期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(例:契約社員として3年以上継続勤務したのに、雇止めにて辞めさせられた) 8)期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(例:契約社員が突然契約更新をしないといわれ辞めた) 9)上司、同僚等からの故意の排斥または著しい冷遇もしくは嫌がらせを受けたことによって離職した者(例:パワハラ被害に遭った、職場イジメに耐えきれず辞めた) 10)事業主から直接もしくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(例:「もう、お前クビ。退職願を明日までに出せよ」と脅されて退職願を出して辞めた) 11)事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3カ月以上となったことにより離職した者(例:業績悪化で会社が休業に入って3カ月経ったため、将来に不安を感じ辞めた) 12)事業所の業務が法令に違反したため離職した者(例:詐欺行為を行っている事業所に嫌気がさして辞めた) |
上記のように、特定受給資格者は会社都合(倒産)にかぎらず、パワハラや職場イジメ、長時間労働に耐えきれず辞めた人にも当てはまるのです。
「特定受給資格者」と認定されるには
特定受給資格者であるか否かは、ハローワークで判断されることになります。
退職したら、会社から「離職票-2」という書類が発行されます。これを、あなたの住んでいる地域を管轄するハローワークに提出しに行きます。
ここで、離職票に書かれている離職理由に問題がなければ、自筆サインをすることになります。
もし離職理由に異議がある場合は、異議申し立てをして、自分の離職が上記のうち1~11のうちどれかに当てはまるため、「特定受給資格者である」と主張することができます。
ハローワークの職員はそれを受けて、あなたの話を聞き、会社側に調査をして、特定受給資格者に当てはまるのかを判断してくれます。
これを「離職理由判断手続き」といいます。
離職理由判断手続きの流れ
引用:厚生労働省 職業安定局
この流れのうち、あなたが行うのは「離職票―2」に、あなたが本当に辞めた理由を記載して、ハローワークに調査を依頼するということです。
離職票には、事業主が記載する退職理由とは別に、本人が退職理由を主張する部分があります。(選択肢に〇をつけるという方式になっている)
そのため、あなたが退職時に受け取った離職票に「自己都合による退職」と書かれていたとしても、そこで強硬に会社側に「会社都合にしてくれ」と主張する必要はありません。
あなたがハローワークに離職票を提出する際に「本当の離職理由は純粋な自己都合ではありません。実はパワハラ被害によって離職したのです」と申告すれば良いのです。
その方が心理的抵抗も少ないのではないでしょうか。
ただし、離職理由の判断には、提出しなければならない書類(証拠物、判断資料)が必要です。
判断に必要な書類
特定受給資格者として判断されるためには、事情ごとに提出しなければならない書類があります。
1)解雇により離職した者(懲戒解雇以外)(例:業績不振による整理解雇で辞めた)
提出物:解雇予告通知書、退職証明書、就業規則など |
2)労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者(就職後1年未満での退職に限る)(例:最初に決めた労働条件が違うから辞めた)
提出物:採用条件及び労働条件がわかる労働契約書や就業規則、入社時の雇用契約書等、入社前に提示されていた条件がわかるもの |
3)賃金の額の3分の1を超える額が支払い期日までに支払われなかった月が引き続き2ヵ月以上となったことにより離職した者(例:2ヵ月間給料未払いで辞めた)
提出物:労働契約書、賃金規定、給与明細書、口座振り込み日がわかるもの |
4)賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下したため離職した者(例:大幅に減給されたので辞めた)
提出物:労働契約書、賃金規定、賃金低下に関する通知書など |
5)離職の直前3か月間に連続して労働基準法に基づき定める基準に規定する時間(各月45時間)を超える時間外労働が行われたため、または事業主が危険もしくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指導されたにもかかわらず、事業所において当該危険もしくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者(例:残業が多すぎなど、法令違反の労働環境の会社を辞めた)
提出物:タイムカード、給与明細など |
6)事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者(例:遠方への転勤命令、全く未経験職種への配置転換など、嫌がらせが原因で辞めた)
提出物:採用時の労働契約書、職種転換・転勤の辞令、配置転換の辞令など |
7)期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(例:契約社員として3年以上継続勤務したのに、雇止めにて辞めさせられた)
提出物:労働契約書、雇入通知書、契約更新の通知書、タイムカードなど |
8)期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(例:契約社員が突然契約更新をしないといわれ辞めた)
提出物:労働契約書、雇用通知書など |
9)上司、同僚等からの故意の排斥または著しい冷遇もしくは嫌がらせを受けたことによって離職した者(例:パワハラ被害に遭った、職場イジメに耐えきれず辞めた)
提出物:特定個人を対象とする配置転換辞令、就業規則、賃金台帳など(その他証拠物があると判断しやすい) |
10)事業主から直接もしくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(例:「もう、お前クビ。退職願を明日までに出せよ」と脅されて退職願を出して辞めた)
提出物:希望退職募集要項など(その他執拗な退職勧奨があったことがわかる証拠があると判断しやすい) |
11)事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3カ月以上となったことにより離職した者(例:業績悪化で会社が休業に入って3カ月経ったため、将来に不安を感じ辞めた)
提出物:賃金台帳、給与明細など |
12)事業所の業務が法令に違反したため離職した者(例:詐欺行為を行っている事業所に嫌気がさして辞めた)
提出物:事業所の業務が法令に違反した事実が分かる資料 |
パワハラの場合は、証拠を集めておく
ハローワークの担当者が、あなたを特定受給資格者であると認定するためには、上記のとおり、判断するに足る証拠物が必要になります。
パワハラ以外の事情であれば、上記のような書類で判断してもらえるのですが、パワハラは証拠書類として残りにくいため、難しい部分です。
例えば、パワハラの場合であれば、ボイスレコーダーでパワハラされていた様子を録音しているといったものがあれば大変有利になります。
いつ、だれに、どのようなハラスメントをされたのか、メモをしておくだけでも証拠として扱ってもらえることもあります。
ただし、このようにしっかりとした証拠がない人も救済されているケースもあります。
具体的にどう対応してくれるかは、各ハローワークの対応力によってさまざまで、一概に言えないのです。
パワハラ被害の証拠として、同僚などの証言があれば良いという局もあれば、厳密に書類として提出させるというところもあるようです。
いずれにせよ、ハローワークの判断がどのようにされるかは、担当者や局の方針により違いがあるようです。
ただし、やはり具体的な証拠がある方が確実に認められる確率が高くなります。
パワハラ被害に遭っている人や、職場イジメ、雇止め、退職勧奨などで苦しんでいて、まだ退職していないのであれば、ぜひ証拠を残すようにしてください。
一方、退職してしまった後で何も証拠らしきものが残っていないと、難しいかもしれません。
しかしハローワークの職員は、最近のパワハラ事件について詳しい人も多く、相談すると何らかの方法を教えてくれることがあります。
「会社都合退職」にこだわる必要はない
パワハラ被害やブラック企業的な労働環境であり退職したのだから、離職理由を「会社都合」にしたい気持ちはわかります。
しかし、そのためには、事前に戦略を立てて退職しなければなりません。さらに、「会社都合による退職」と会社側に認めさせるには、多大な労力が必要になってきます。
当然、会社は会社都合退職であると素直に認めることはありません。
企業イメージも低下しますし、さまざまな行政上のペナルティを受ける可能性もあるからです。そのため、あなたの退職を会社都合扱いにするためには、大変な闘いになることを覚悟しないといけません。
あなたにはそれだけの気力がないからこそ、退職したのではないですか。
また、もし会社都合退職扱いになったら、次の会社へ転職する際も、履歴書には「会社都合により退職」と書かなければなりません。
その際、転職面接では「会社都合とは、どのような事情があったのか」と問われるでしょう。
その質問に対し、「パワハラ被害に遭っていたからです。前職の離職時には、何とか会社都合ということを立証しました」と答える必要があると思いますが、このように主張する応募者を、採用側はどう思うでしょうか。
おそらく、トラブルメーカーであり、自社でも何等かのトラブルを起こす人材ではないか?と敬遠されることでしょう。
そのため、会社都合退職にこだわる必要はありません。会社都合退職のメリットは、失業給付が手厚いということだけです。
退職の段階では、「自己都合退職」という形にしておいても良いのです。
そのような状態であっても、ハローワークに相談すれば「特定受給資格者」として会社都合退職の人と同じような補償を得られます。
過去より未来を探そう
以上のように、パワハラやブラック企業に苦しめられた人には、雇用保険の救済制度がありますから、ぜひ利用しましょう。そして、新たな気持ちで転職活動をしてください。
いつまでも退職理由を「自己都合を会社都合に変えてやりたい」と考えているのは、生産的ではありません。過去のことにこだわらず、新しい未来を探してください。
ハローワークに足を運べば、求人情報を色々眺めることができます。
ただし、ハローワークで求人を出している会社には一定の割合でブラック企業が含まれているといわれています。
そのため、本当にあなたの力を活かせる会社を探すには、転職サイト(エージェント)などを利用して、効率良く行ってください。
特定受給資格者となることができれば、3か月の給付制限なく失業手当をもらえます。早めに手当てをもらい、早めに転職先を見つけて欲しいと思います。