残業代を払ってもらっておらず、何とかして回収したいと思っている人は、最終的には訴訟を検討すると思います。
訴訟を起こすには、弁護士に依頼するのが一般的です。素人が知識なく闘うよりも確実に未払い賃金を回収できますから、本格的な訴訟を起こす予定であれば、弁護士に依頼する必要があると思います。
しかし、今、「残業代回収」という、一見労働者の味方を装いつつ、雑に訴訟を行って結果的に損をしたという労働者も増えているようです。
今回は、未払い残業代請求訴訟で「ブラック弁護士」に搾取されない対策を解説します。
弁護士の「未払い残業代回収ビジネス」
弁護士を探そうと思ったとき、「残業代 回収」とか「残業代 訴訟」「残業代 取り返す」などのキーワードでネット検索する人も多いでしょう。
一度、このワードで検索をしてみてください。
さまざまな弁護士団体が、「あなたの残業代、取り返せます!」とアピールしていて、問い合わせを得ようとしているのがわかります。
この中で、あなたが確実に信用できると感じた弁護士さんがいれば、依頼するのも良いですが、世の中にはそれほど誠実ではない弁護士がいる、ということも知っておいてください。
今、未払い残業代回収の代行をすることが、弁護士の間では一つのビジネスチャンスとなっています。
最近、残業代請求や不当解雇、セクハラパワハラなどの労働関係の民事訴訟が増えてきています。それを背景に、労働者をターゲットにした訴訟代行が流行っている状態です。
もちろん、こういったサービスが充実してくるのはありがたいことでもあります。
ただし、一部の弁護士には、表向きは労働者の味方を装いつつ、相談料、着手金、成功報酬だけが目当ての団体もあるようです。
典型的なケースでは、訴訟を起こしたい労働者をホームページなどで集め、大量に受注まで持っていきます。
そして、まず着手金を受け取ります。
しかしこの後、雑な仕事で、依頼者が到底満足できないような低水準な和解金でコトをおさめてしまいます。
そして、その中から報奨金(成功報酬)を取っていくというものです。
薄利多売ビジネスのため回転率が必要
弁護士にとって、労働者をターゲットにする仕事は、「薄利多売」のビジネスモデルになります。
労働者側で、かつ訴訟希望者は、すでに会社を辞めていることが多いので、失業中の人も含まれます。
そのような人をターゲットにするとなると、ある程度多くの依頼人を引き受け、要領よく回転させていかないと、利益につながらないのです。
そのため、悪質な弁護士は、依頼人をホームページなどで巧みに誘い込み、問い合わせを多数得ます。
そして、「この案件であれば、数百万円を取り返すことができる」と訴える額をつりあげます。
訴える額が高額であるほど、最初に受け取ることができる着手金を増やせるからです。
一方、着手金を得てからは、次の依頼人を集めることに手一杯で、実際の訴訟活動が雑になっていきます。
ひどいところだと、後から「あなたが残業をしたという証拠が少ないので、難しいかもしれない」などと言い訳しつつ、「やっつけ仕事」のような形で相手方の会社に和解交渉をします。
その結果、低い額の和解金で終わりにされてしまうのです。
労働法に詳しくない弁護士もいる
司法制度改革によって、弁護士の数が増えています。
しかし、資格を取ったばかりの弁護士がすぐ開業できるわけでもなく、また弁護士事務所などに就職しようとしても、十分な空きがありません。
その結果、通常の訴訟案件だけではビジネスが回らず、労使紛争に関係する訴訟に参入してくる弁護士が増えています。
こういった弁護士団体だと、そもそも労働法が専門ではないことが一般的です。
かつ、事務所の経験が浅い若手の弁護士が担当することが多いです。
そのため、本来は必要なはずの「有力な証拠」がないまま訴訟を始めたり、途中で話がこじれると安易な和解で終わらせようとしたりといったことも起こるのです。
当然ですが、訴訟になれば相手の会社にも弁護士が付きます。
相手企業が力のある会社であれば、雇う弁護士は労働法の知識が豊富で、かつ企業防衛的な対策を練ってくるはずです。
これらの人と対等に戦い、勝訴するには、ある程度労働法専門で数年間の経験がある事務所に依頼する必要があります。
弁護士に搾取されない対策
世の中には、労働者から搾取しようとする弁護士がいることを述べてきました。
そのため、これから未払い残業代を訴訟にて取り返そうとしている人は、慎重に弁護士を探すようにしてください。
まず、ホームページで検索して、ヒットした団体に何もわからないまま問い合わせをするのはやめましょう。
ある程度、未払い残業代請求訴訟の流れを調べ、信用できる弁護士の基準を確認してから問い合わせるようにしましょう。
「日本労働弁護士団」に相談
労働法に精通していて、かつ労働者から搾取するブラック弁護士ではない事務所に確実にコンタクトしたいなら、まずは日本労働弁護団の無料電話相談を利用してみてください。
この団体に所属しているのは、労働問題に詳しく、さらに労働者の権利について理解のある弁護士に限るということになっています。
全国で約1500人の、労働問題専門の弁護士が所属しています。
面談ではなくても、この団体が独自に行っている無料の電話相談もあります。
所属している弁護士は、労働問題について高い専門性があります。
たとえ若い人であっても、おかしな助言をすることはありませんので、安心して相談ができます。
電話に出てくれた弁護士に相談することによって、訴訟として成り立ちそうな案件であれば、その弁護士の事務所にあらためて相談をするという流れになっています。
時間が限られていて若干つながりにくいですが、本気で訴訟を検討している人は、ここにまず連絡することが一番確実です。
各地の弁護士会の法律相談を利用する
各地には、その地方の弁護士を管轄する弁護士会があります。
そこでは、定期的に法律相談を受け付けています。多くは有料で、30分につき5000円程度が相場です。
相談したあと、本人が希望する場合は弁護士を紹介してくれます。
窓口で応対してくれた弁護士が担当することもあれば、別の弁護士に後から改めて相談ということになることもあります。
ただ、弁護士会の法律相談経由では、労働法に詳しい弁護士であるとか、残業代未払い訴訟が得意な弁護士といったように、得意分野を持つ弁護士を紹介してもらうことはできないようです。
あくまで公的な法律相談を受け、「弁護士資格を持つ人」をあっせんするというしくみになっています。
社労士の知恵を借りる
訴訟を検討しているとしても、いきなり弁護士を自分で探そうとするよりも、労働法に詳しい専門家に聞いてみるのも一つの方法です。
労働法に詳しい専門家として社会保険労務士(社労士)があげられます。
社労士の多くは、会社側に雇われて、会社の就業規則を作るとか、労働保険料や給与などの計算をするといった仕事をしています。
一方、労働法の知識を活かして、労働者の立場で相談に乗ってくれる活動をしている社労士もいます。
このような団体であれば、労働者側の立場に立ち、本人に一番適した対応先を共に考えてくれます。
訴訟を起こすという方法以外にも、専門家から見ればより良い方法を提案してくれる可能性もあります。
たとえば、「裁判外紛争手続(ADR)」という方法で、会社側と交渉することもできます。
裁判外紛争手続きとは、裁判所以外で行われる「使用者と労働者の紛争を解決する話し合い」のことです。
社労士のうち、一定の資格を持つ「特定社会保険労務士」という専門家であれば、代理人として裁判外紛争解決手続に出席し、会社と交渉をすることもできます。
また、社会保険労務士は、お互いの専門知識を補いあうために、弁護士と連携している人が多いです。
労働者側の社労士団体にまず相談し、裁判しか解決策がないという場合に、労働法に詳しい信頼のおける弁護士を紹介してもらうと確実です。
なお、社労士が運営する団体に相談する場合は、30分につき3000円~5000くらいの相談料がかかることがあります。
上記のNPO法人労働者を守る会であれば、労働相談料は1時間につき3000円程度と、弁護士より若干安く相談できます。
労働基準監督署や市町村の無料労働相談でも、相談には乗ってくれます。
しかし、相談料を取っていない相談であると、相談内容は一般的になりやすく、「あなたは具体的に何をしたら良い」とまではアドバイスしてもらえないです。
一方、「残業代を取り返す」という明確な意思を持つのであれば、たとえ有料であってもきちんと対応策を考えてくれる専門家に相談したほうが、結果として解決に結びつくのではないでしょうか。
訴訟と並行して新たな職場探しを
未払いの残業代を取り返すためには、専門家の力が必要です。
それには当然費用がかかります。また、時間もかなりかかることを覚悟しないといけません。
裁判で闘うことになったら、訴えてから結果が出るまでに、約1年かかります。
平均的に1年くらいということであり、もっと長くかかる人もいるようです。
地裁判決で1年、高裁まで行けばそこから半年~1年かかることになります。(最高裁にまで発展することは稀)
一方、社労士が代行してくれる「労働審判」であっても、申し立てから70日~80日(約3か月)およびその前の手続きで1~2ヵ月かかります。
このように、残業代を取り戻すための闘いには時間がかかります。
その間の生活費も必要であり、かつ専門家に支払う料金も、前払いをしていく必要があります。
訴えようとしている会社にまだ所属している人は、その間の生活費は賄えるかもしれません。
しかし、そのような状態であれば、いつ辞めることになってもおかしくありません。
残業代を取り戻すのも大事な活動かもしれませんが、あなたのこれからの職業人生と賃金収入も、早めに取り戻していかなければなりません。
3カ月から1年半もの間、闘うことだけに熱中せずに、新たな職場探しも並行して行いましょう。
訴訟に対して弁護士や社労士などの専門家の知恵を借りることが大事なように、再就職にも転職のプロの援助を活用した方がスムーズに行きます。
訴訟問題を抱えていると精神的にも辛く、転職活動を自分ひとりで要領よくこなすことは無理です。
転職サイト(エージェント)に相談すると、あなたが調べるべきことを変わって調べてくれたり、相手企業とコンタクトを取ってくれたりして、まさに便利な代行を行ってくれるので、ぜひ活用しましょう。
また、残業代の未払いで苦しんが過去があるのですから、次に選ぶべき会社が同じような違法行為をする会社であってはなりません。
自分ひとりで選択せずに、職探しの専門家の助言を受けながら、同じ被害に遭わないように対策をして欲しいと思います。