職場いじめを受けていて、それを我慢しつづけていると、いずれ被害者の心と身体にひずみがでてしまいます。
今、職場でひどいいじめを受けている人は、心と身体を危険にさらしているということです。
今回は、職場いじめ(モラハラ)を我慢し続けると起こる心と身体への悪影響について解説します。
職場いじめ(モラハラ)は被害者の心身を破壊する
性別や年齢に関係なく、いじめを受けている人にはどの人にも共通した症状が現れるといわれています。
症状がどのくらい重いかは、受けてきた職場いじめ(モラハラ)の強さや激しさ、継続した期間と関係があります。
そして、被害者の性格や、考え方とはそれほど関係はありません。
職場いじめで心身不調が起こっても、会社側や職場の人は、「あの人は心が弱いから」「あの人は、もともとうつ病の素養を持っていたんだよ」などといって、被害者の性格や考え方の責任にしがちです。
しかし、断じてそうではありません。被害者の性格が弱かろうが強かろうが関係なく、職場いじめを受ければ、誰にでも、ほとんど共通の心身不調が現れます。
職場いじめは被害者に大変に傷つけるものです。
その傷が強烈であるため、精神的に正しく処理することができません。その傷を処理しないまま心の奥に押し込めてしまう(抑圧する)ことが多いです。
まずは「これは本当にあったことだろうか?」「わたしが職場でいじめられるわけがない。何かの間違いだ」「このようにひどい扱いをされるのは、私に何か問題があるのかもしれない、私がおかしいのだ」と疑問に思います。
しかし、ほとんどはなぜいじめられるのかがわからないまま、屈辱感にもがき苦しみます。
被害を受けて我慢し続けている人は、以下のような症状が現れます。
これらの心身不調は、最初は一般的なものから始まります。
そしていじめの被害を受ける期間の長さと強さによって、だんだん症状の程度がひどくなっていきます。
レベル1:ストレス性機能障害
職場いじめの被害が始まったばかりの頃は、被害者には軽度の「ストレス性の機能障害」が起こります。
(まだ加害行為がエスカレートしていないときや、被害者側にも反撃することや解決策をイメージできる段階です)
ストレス性の機能障害とは、以下のような症状です。
- イライラする、感情の起伏が大きくなる(怒りっぽくなる、わけもなく泣けてくる)
- 特に理由もないのに倦怠感(疲れ、だるさ)がある
- 睡眠リズムのかく乱(夜寝付けない、朝起きられない、朝早く起きてしまう、眠りが浅い、眠りが途切れる)
- 集中力が乏しくなる
- 趣味や興味のあったことが面白くなくなる
- 頭痛や腰痛などの身体の痛み
- 食欲のコントロールができない(食べられない、食べ過ぎる、甘いものなど特定の食物への依存)
- アルコールやタバコなど嗜好品への依存
- 性機能の低下、あるいは性行為への依存
ストレス性の機能障害は、ストレスを受けているせいで、日常的に緊張状態に置かれているために起こります。
まだこの段階であれば、職場いじめの加害者と接する機会が減れば、症状は確実におさまります。
通常のストレスを受けたときと同じような反応であるため、ストレスの原因がなくなれば、元の機能に戻るからです。
ただし、職場いじめのストレスと、通常のストレスとの違いは、強い無力感と屈辱感があること、さらに「なぜこんなことが起こるのか?原因がわからない」という不安感がつきまとうことです。
レベル2:抑うつ
職場いじめの期間が長くなるにつれ、被害者は徐々に抑うつ状態に陥ります。抑うつ状態とは、以下のようなことをいいます。
- いつも悲しい気分が続く
- 自分には何の価値もないと思う
- 自分は社会に適合できない人間だと感じる
- 自分は周りの人についていけない、無能な人間だと思う
- まわりで起こった悪いことは、すべて自分に原因があると感じる
- 日常生活で楽しいことやリラックスできる場面がなくなる
- 食べものの味がしなくなる
- 性機能がほとんど欠如する
このような強い抑うつ状態へ移行している場合は、何とかして加害者と距離を置くことを検討しなければなりません。
なぜなら、これらの症状が出ているということは本格的なうつ病に罹患している可能性が高く、症状を放置しておくと、自殺の危険性すらあるからです。
また、抑うつ状態に陥っていても、職場いじめの被害者は、周りの人にうつ状態であることを隠す傾向があります。
そして医療の手をかりることも拒む人も多いです。
それは、「自分は会社の期待に応えられない無力な存在」という罪悪感が原因です。
また、いじめを受けているという屈辱を正視したくなくて、うつ状態になっていることそのものを否定している被害者もいます。
レベル3:心身症
職場いじめに我慢し続けてきた期間が長くなると、次第に心身症へと発展していきます。
心身症とは、精神的ストレスが原因となって、身体に痛みや不調などのさまざまな不調が出る病気のことです。
単純に、身体機能に何が原因があって起こるのではなく、心が原因で身体に不調が起こることです。良く知られているのが、以下のような身体不調です。
- 胃炎
- 過敏性腸症候群
- 月経不順
- ぜんそく、気管支炎
- アトピー性皮膚炎
- 偏頭痛
- 腰痛
- 摂食障害
- めまい
- 甲状腺異常
- 原因不明の皮膚病(湿疹、ニキビなど)
これらの身体症状は、原因が心のストレスにあるため、身体へアプローチする治療をいくらしても、改善しません。
ある職場いじめでひどい気管支炎を発症した人は、数えきれないほどの薬を飲み、気管支ぜんそくに効くという治療を片っ端から試しましたが、一向に良くなりませんでした。
しかし職場を辞めて2ヵ月したら、嘘のように症状がなくなりました。
職場いじめの被害者のなかには、明確に「抑うつ気分」などの精神的症状があらわれない人がいます。
それらの人こそ、身体の方に不調が出ていることが多いです。
なぜなら、いじめの攻撃を受けても、心はまだその事実を受け入れておらず「いじめなど起こってはいない」「このくらい我慢できる」としています。
しかし一方身体の方は、そのいじめ行為に反応していて、その人の身体で一番弱い部分に症状が出るのです。
心身症が怖いのは、その原因が心の方にあることに気づかないことです。
医師であっても心身症を見抜くことは難しいです。
もし職場いじめに思い当たることがあり、原因不明の身体不調に悩んでいるのであれば、それは心身症であるかもしれませんので、注意してください。
レベル4:心的外傷後ストレス障害(PTSD)
死に直面するような事件や事故を体験した人が、それが心的外傷(トラウマ)になって、心の奥底に残ってしまうことがあります。
それと同じことが、職場いじめの被害者には起こると考えられています。
職場いじめが始まったばかりの頃や、程度が軽い時期から、一般的なストレス性機能障害や抑うつ気分、軽い身体症状が現れてきます。
しかし、いじめが数か月~半年程度続くと、将来にわたって長く続く「トラウマ」になってしまうことがあります。
これは、職場いじめが治まったり、あるいは会社を辞めて加害者と離れたりしても、その後かなり長い間、精神的に不安定になります。
これが心的外傷後ストレス障害(PTSD)といい、重大な後遺症を引きおこすという心の病です。
心的外傷後ストレス障害は、以下のような「苦痛の再体験」が起こる病気です。
- トラウマとなった出来事(職場で仲間はずれにされた、罵倒された)が何度も思いだされて、そのことを考えずにいられない
- そのときの屈辱の場面が何度もリアルによみがえる(フラッシュバック)
- 眠ったとたん、トラウマとなった出来事が悪夢となって出てくる
- 時間の感覚がわからなくなる(過去のことを現在起こっていると感じることがある)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、こういった苦痛の再体験が長期間続きます。
人によっては、一生続く場合があります。
いじめの被害者は、いつまでたってもこの出来事を忘れられないのです。
あるいじめ被害者は、10年経ったあとに、いじめ加害者に似た人に道端ですれ違いました。
そのときに、当時に行われたいじめ行為がはっきりとよみがえってきて、めまいと動悸に襲われ、その場に倒れこんでしまったことがあるそうです。
PTSDが怖いのは、このような「苦痛の再体験」と、しつこく何年も何十年も付き合わなければならないことです。
職場いじめで劇的に変化する精神状態
職場いじめを耐えつづけていると、上に述べたような心身不調と並行して、精神状態や性格、考え方も劇的に変化してしまいます。
つまり、あなたの人格的な良さや、「普通の感覚」、自尊心、仕事への意欲など、生き生きと生活するために必要な根本的な土台が崩れてしまうということです。
以下は、職場いじめの被害を長年耐え続けた人に起こる精神状態の特徴です。
自己嫌悪感、恥と屈辱の意識
通常のストレスと違って、職場いじめの被害者特有に現れるのが、強い自己嫌悪感と自分を恥じる意識です。
職場いじめを受けている最中であっても、会社を辞めたあとであっても、被害者は自分を責め続けるのです。
意外にも、加害者に対して憎しみを感じていない人や、加害者に報復したいと思う被害者は少ないのです。
職場いじめの被害を長年受けていた人は、共通して「自分は無力だ」「消えてしまいたい」「人に迷惑をかけない場所で隠遁生活を送りたい」と感じています。
いじめ被害者が一番自己嫌悪を感じるのは、以下のようなことを思いだすからです。
- 自分はいじめられるような存在であった
- いじめられていたという事実に対し、何もできなかった
- いじめられていたということを自分で認めなかった
- 笑ってこらえてきた
- 屈辱を受けても自虐ネタでいじめをかわしてきた
- いじめられていたということに気づかなかった
誰かから攻撃を受けても、やり返して尊厳を守ったり、いじめに気づいて加害者から逃げたりできていれば、長々と思い悩むことはありません。
しかし、自分を攻撃することをやめさせるのに必要なことができなかったことが、悔しくて恥ずかしいと感じるのです。
どうして言い返さなかったのだろう、どうしていいなりになったのだろう、笑ってごまかしてしまった……。
そうすることしかできなかった自分自身のことを、嫌いになってしまうのです。
「自分の感覚は異常かもしれない」と感じる
職場いじめは、直接的なものよりも、むしろ陰で行われたりそれとわからない方法でいじめられることが多いです。
たとえば、表面的な言葉の意味とは違う、裏の意味がある言葉を頻繁に言われるなどです。
営業成績が上がらない人に対し
「いやあ、今月の君の活躍、すごいよね。さすが鳴り物入りで配属された敏腕営業マンだ!」
と加害者が言ったとします。
これは客観的に聞けば、明らかにいじめですが、当事者としては
「この人の真意はどこにあるのだろうか。鼓舞しようとしているのか、あるいは本気で言っているのか、あるいは嫌味なのか?」
と混乱するのです。
こういった行為に日常的にさらされていると、どの言葉を信じていいのかがわからなくなり、途方にくれてしまいます。
職場で交わされる会話に表と裏の意味があって、どちらを受け取ればいいのかがわからないのは、想像以上にストレスになります。
さらに、たとえ嫌味などの悪意が含まれている言葉であっても、表面上の言葉がなんでもないようなことであると、正面切って言い返すこともできません。
上の例でいくと、「敏腕の営業マンだね!」という言葉がけには嫌味が含まれていますが、この言葉に対する反論は非常にしにくいのです。
嫌味といういじめを受けているにもかかわらず、それがいじめなのか本来の激励なのかがわからず、違和感だけが残ります。
そのうち、「もしかしたら自分の感覚がおかしいのかもしれない」と感じるようになります。
また、職場いじめの一種に「矛盾した指示を与える」ということもあります。
例えば「〇〇をしなさい」という指示をしたにもかかわらず、それを行っていると「なぜ〇〇などしているんだ?」と叱るといったことです。
あるいは到底できないような仕事を与えておきながら、できないでいると「なぜこんなことができない!」と罵倒するというのも同じです。
こういったことをされると、被害者側はどうしたらいいかわからなくなり、身動きできなります。
次第に、仕事へのまともな感覚もなくなっていき、「自分はどうかしてしまっている」と自分の感覚がすべて間違っているように感じます。
そこで「上司の方が間違っている」と指摘してくれる人がいれば、少しは救われます。
ただ、職場いじめは陰で行われるものですし、周囲の人も見て見ぬふりをします。
そうなると余計「周りの人も黙っているということは、やはり自分が一番おかしいのだ」という考えにはまっていくことになります。
疑い深く妄想症的な人格になる
職場いじめを受け続けていると、性格が非常に疑い深くなります。
人を信じられず、いつも誰かから罠にかけられるのではないかと日々緊張していれば、疑り深くなるのは当然のことです。
ひどくなると、単なる疑い深い人ではなく妄想症的な人になることもあります。
精神的に破壊される
職場いじめが長引き、ついに行き着くところまで行くと、被害者は精神的に破壊されてしまいます。
つまり、慢性の抑うつ状態(重度のうつ病)あるいは強迫神経症などに罹患することがあります。
また、自分を傷つけた職場いじめの行為を、まるでその出来事に支配されてしまったかのように、繰り返し繰り返し考え続けることになります。
「ああすればよかった」「なぜ仕返ししなかったんだ」と恥と屈辱にのまれてしまいます。
そうなると、自分の本来の人生を楽しむことができなくなります。
時が止まったように、過去のいじめ被害に囚われて未来を失くしてしまいます。
職場いじめで症状が出ている場合の対処
上記のような症状が出ていて、しかも症状のレベルが高い人は、できるだけ以下のことを心がけてください。
誰かに「その行為はいじめだ」と認めてもらう
一人でいじめに耐えている人は、勇気を持って、誰かに今受けている被害を相談してください。
そして、「その行為は明らかにいじめだよ。あなたが悪いわけではない」という意見を、何としてでもらうようにしてください。
それがとても救いになります。
いじめ被害に長い間さらされている人は、前述の通り自分の感覚が異常ではないかと感じるようになります。
それを放置すると、どんどん精神的な崩壊を招いて、最終的には妄想症的な人格になってしまったり、重度の精神疾患に発展したりします。
そうならないためにも、「自分は悪くない」「いじめをする加害者の方が悪い」と、あなたに言ってくれる人を探しましょう。
仲が良くあなたを親身に思ってくれる友人でもいいでしょう。
あるいは地域の労働相談を受け付けている役所でもいいです。
あるいは民間のカウンセリングルームなどに相談に行けば、あなたの身になって真剣に聞いてくれます。
とにかく、あなた以外の人に「その行為はいじめである」ということを認めてもらうことで、少しでも心の安定をはからなければなりません。
加害者から距離を置く
職場いじめを受けている場合、早めに自分の心身不調に気づいて、身を守るようにしなければなりません。
職場いじめから逃れるには、加害者の上司に相談していじめ行為をやめさせたり、会社側の安全配慮義務に訴えて職場環境を整えるように働きかけるのも一つの手です。
しかし、あなたがすでに上記のような心身不調を感じているのであれば、加害者と闘ったり会社に改善を依頼したりする気力は残っていないのではないでしょうか。
そうなると、究極のところ加害者と距離を置くことが一番の解決策になります。
そのためまずは異動ができそうなら異動申請をしましょう。
しかし、小規模の事務所で異動しても人間関係が変動しない場合や、職場の人たちが集団でいじめてくるような場合は、その会社そのものから距離を置いた方が良いです。
職場いじめを我慢し続けて心身を壊すと、治療に大変な時間もかかり、仕事どころか日常生活にも影響が出ます。
完治までに数年かかりますし治療費は数十万~数百万ほどになることがあります。
転職の準備をしたり、キャリアアップのための資格取得を目指したりして、心身を壊す職場から逃れる努力をしてください。
いじめをする人は人格も未熟で、本気で取り合う相手ではないはずです。
そんな人に足をひっぱられて無駄な悩みを続けるというのは、あなたの大事な時間の無駄づかいです。
加害者から距離を置くために、異動や転職をすることは、逃げではありません。
いじめの加害者に報復したいとか、慰謝料などの損害賠償請求をしたいという気持ちでいる人もいるでしょう。
何としても謝らせたいという気持ちが強いのであれば、大変な労力はかかりますが、裁判などの闘いの道を選んでもいいかもしれません。
しかし、仕返しに労力を割くよりも、新たな道を歩み、明るい未来を探した方が生産的ではないでしょうか。