セクハラという言葉を知っていても、具体的にどのような言動がセクハラにあたるのかを理解しておかないと、知らないうちに加害者になっていたり、被害を避けることができなかったりします。
性的なことに対する意識というのは人それぞれ違いがあります。さらに、男女によって受け止め方も違います。
そのため、杓子定規的に「この行為は絶対セクハラ」ということはできません。しかし、だいたいこのような言動をすると、セクハラであると思われる可能性が高いという行為があります。
今回は、具体的にどういった言動がセクハラに当たるのかを解説します。
相手が不愉快に感じる性的な言動
セクハラは、簡単に定義すると、職場において、相手が不愉快に感じる性的な言動すべてのことをいいます。
職場とは、一般的に働く場所ですが、その人が所属している事務所などの場所だけではありません。出張先や取引先との会議場所、移動中の車の中でも「職場」にあたります。
された側がどう感じるかで決まる
セクハラをする人が「この行為はセクハラだろうな」とわかっていたとしても、わかっていなかったとしても、された人が「この行為は不愉快だ」と感じたら、それはセクハラになります。
加害者が「そんなつもりは無かった!」「知らなかった」と抗弁しても通りません。
人の気持ちは一定ではありませんし、お互いの関係性によっても変わってきます。
同じ行為であっても、Aさんにされるのはいいけれど、Bさんにされるのは不愉快だと思っている人からすれば、Aさんの行為はセクハラにはならず、Bさんの行為はセクハラになります。
そのため、「この行為はセクハラで、これはセクハラではない」と一律に決めることはできません。難しいところですが、現在のセクハラの判断はこのようになっています。
F子さんは、好意を寄せているA氏から、そっと肩を撫でられ「いつも頑張っているね」と言われました。
F子さんはとても嬉しくて、ますます仕事を頑張ろうと思いました。
(A氏の行為はセクハラにはあたらない)
F子さんは、普段から気持ちが悪いと思っているB氏から、そっと肩を撫でられ「いつも頑張っているね」と言われました。
F子さんは本当に気分が悪くなり、その日の仕事に集中できなくなりました。
(B氏の行為はセクハラにあたる)
もちろん、厳密にいえばセクハラに当たる行為であっても、すべてが処分の対象になるわけではありません。
訴えたら必ずセクハラと認定され、慰謝料を取れるなどということもありません。
「される側が不愉快に感じる行為」がセクハラに当たるわけですから、もしあなたが被害に遭っている側であれば、たとえささいな行為であっても「嫌だ」と思うのであれば、それはセクハラにあたります。
また、もしあなたが「行為者」の可能性がある立場であれば、「もしかして不愉快に思われるかもしれない」という行為を控えることによって、セクハラの加害者となるのを防ぐことができます。
「このくらいは許されるだろう」あるいは「自分との関係は良好だから大丈夫だ」と勝手に思い込んでしまうと、知らないうちにセクハラ加害者になってしまうかもしれません。
環境型セクハラの具体例
セクハラには、大きくわけると「環境型」のセクハラと「対価型」のセクハラがあります。
環境型セクハラとは、職場での性的な発言や行動によって、労働者を不快にさせ、仕事をする環境に悪影響をおよぼすものです。
職場での性的な発言や行動とは具体的に以下のようなものです。
性的な「発言」で職場環境が不快
また、セクハラの定義は「性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じること」となっています。
セクハラは性的なことを言って相手を不快にさせる行為と、性的なことを「行って」相手を不快にさせる行為があります。
性的な「発言」で職場の環境が不快に思われる具体例は以下のようなものです。
褒めているつもりの性的な発言)
C子さんは、周囲の男性から「胸が大きいね」「セクシーだね」「とても綺麗だ」などと言われている。男性たちは褒めているつもりであるが、本人は辛い思いをしている。
そのため仕事に身が入らない。
たとえ褒めているつもりでも、された人が不愉快に感じる性的な言葉はセクハラに当たります。
また、仕事に身が入らない状態というのは、「職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じること」と認められます。
職場外での性的な発言)
K美さんは、「彼女は夜の仕事をしていたんだよ」などと、取引先の担当者に噂を流された。そのため、取引先へ訪問しづらくなり、営業成績が下がってしまった。
P子さんは、飲み会で上司の隣に座らされ、「彼氏とデートするときはどこで何をしてるの?」などと、プライベートの性経験をしつこく聞かれて不愉快になった。
性的な噂を流すことはセクハラに当たります。
また、「取引先は職場ではない」「飲み会は時間外だから、その場所での行為はセクハラにはならない」という理屈も通りません。
「職場」とは労働者の業務遂行の場所を広くとらえた言葉です。
取引先以外でも、出張先や移動中の車、飲み会などの席であっても、仕事における人間関係のもとで被害がおこっているなら、それはセクハラであるといえます。
男性被害者への性的発言)
B男さんは、事務所の女性社員と休憩を取っているときに、赤裸々に女性社員の性体験を聞かされる。
また、「あんたならどうする?」「あんたは彼女とどうしてるの?」としきりに問い詰められてしまう。
B男さんは休憩時間は事務所でゆっくり休めず、次第に体調不良となってしまった。
セクハラの被害者は、女性に限りません。
男性であっても、性的な言動により不快になるのであれば、セクハラになります。
女性加害者から女性被害者への発言)
U子さんは、女性の先輩に「いつ子ども作るの?」「妊娠できない身体なんじゃないの?」などと言われ職場に居辛くなっている。
セクハラの加害者も、男性に限りません。
女性同士であっても、された方が不快に思う性的な発言であれば、セクハラが成立します。
性差別的な発言)
N子さんは、上司から、会議のたびに「女のくせに」「女の子は発言を慎むように」と言われ、自尊心を傷つけられている。
自分の意見を言えず仕事でも成果があがらない。
D男さんは上司から「男のくせに定時で帰るな」「男だったらもっとはっきりものを言えよ」とからかわれている。
このように、発言内容が「セクシュアル」なものでなくても、女性であることあるいは男性であることを理由に、仕事上不利な立場に追いやったり、性別によって待遇を変え、本人を困惑させたりする行為はセクハラになります。
性的関係を迫る発言)
E子さんは、上司に「君を大事にしたい」「一度でいいから食事に行こう」などと言われ、困っている。
断ることで上司と気まずくなるのが怖く、生返事をしているが、仕事がやりにくくなってしまった。
S子さんは、取引先の担当者に「ホテルに行こう」などと言われて困惑している。
性的関係を迫る発言は、たとえ身体的接触がなくてもセクハラになります。
「断った段階でセクハラになる」のではなく、そういった発言をして相手が不快に思った段階でセクハラが成立します。
また、加害者は社内の人に限らず、取引先の担当者など外部の人であっても同じです。仕事における人間関係上の被害であれば、セクハラに当たります。
性的な「行動」で職場環境が不快
性的な「行動」で、労働者が不快に感じる場合の具体例は以下のようなものです。
身体接触)
名前を呼ばず、「君、ねえ」といって肩をもんだり腰に手を当てたりする。
飲み会のとき、隣に座らせて、太ももに手をのせる。
必要性のない場面で身体に触る行為は、誰もが「セクハラである」と理解しやすい行為です。
しかし、セクハラへの意識が広がっているものの、未だに平気で身体接触を繰り返す人がいます。
視覚的な行動)
スクリーンセーバーに女性のヌード写真を使う。
休憩時間に、性的な雑誌や写真集を職場で見ている。
職場で「女性を性的興味の対象」とする雑誌や写真を掲示することもセクハラです。
行為が休憩時間中であっても、「職場」には変わりがありません。
また、休憩室や自動販売機などに女性のヌード写真を掲示するのもいけません。たとえ場所が休憩室であっても、労働者が就労する場所に含まれます。
性差別的な行動)
女性だけにお茶くみをさせる。女性だけに電話応対をさせる。女性だけに掃除をさせる。
男性だけに力仕事をさせる。男性だけに掃除をさせる。男性だからという理由で雑用をさせる。
必ずしも性的な興味関心から行われるものだけがセクハラではなく、性差別的な意識で相手に不快な思いをさせることもセクハラです。
これは、女性だけではなく、男性への性差別的な扱いも含まれます。
その他)
近くを通るたびに、体中をなめまわすようにジロジロと見る。
直接的な身体接触がなくても、「ジロジロ見る」という行為で相手を不快にさせることも、セクハラに当たります。
このように、環境型セクハラには「発言」と「行動」があります。
いずれも、性的興味関心のために不用意な発言をしたり行動したりして、相手を傷つける行為といえます。
対価型セクハラの具体例
環境型セクハラに加え、「対価型」と分類されるセクハラがあります。
対価型セクハラとは、行為者が職場の地位や権力を利用して性的な言動をし、拒否された場合に解雇、懲戒、降格、減給などの不利益な行為をすることをいいます。
「環境型セクハラ」は、具体例で見てきたとおり、行為者に悪いがないものや、単に知識がないだけの言動が多く見られます。
しかし、「対価型セクハラ」は、職場の地位や権力を盾にして、意図的に行われる性的いやがらせです。さらに、拒否されると職位を利用して不利益な取り扱い(報復)をする行為であり、環境型よりも悪質度が高いのです。
対価型セクハラの具体例は以下のようなものです。
執拗に性的関係を迫られたが、拒否した。その後、職場で無視をされるようになり、重要な仕事からはすべて外されてしまった。
出張先で身体に触られたため「やめて欲しい」と断ったら、後から降格処分となった。
取引先の常務から性的関係を迫られたため、会社の役員に相談したところ、取引先の担当から外され、遠隔地への配転となった。
契約社員として勤務していたが社長から性的関係を迫られた。断ったところ、契約更新をしないと言われ雇止めされた。
このように、行為者は自分の職位上の権限を利用して性的な欲求を満たそうと試み、断られると被害者を職場に居辛くしたり不利益な待遇を与えたりして報復します。
また、性的な関係に応じるかどうかで、職場の待遇を変えるといったことをほのめかす行為も対価型セクハラに含まれます。例えば以下のようなものです。
取引先の担当者に「君のところの商品を継続購入するよ。だから一度だけ飲みに行こうよ」と言われた。
昇格人事査定の際、上司から密室に呼ばれ「君の昇格を推薦しようと思っているんだけど、そのためには特別な面談が必要だと思うんだ。明日の夜にでもどうかな」などと、性的な交渉を引き換えに昇格推薦することをほのめかされた。
このように、性的接触と引き換えに好待遇を与えるとほのめかす行為は対価型セクハラです。
加害者は自分の仕事上での権力をことさらに強調する傾向があります。
正しい知識でセクハラは減らせる
セクハラの具体的事例を知ると、「自分が受けていた行為はまさしくセクハラにあたる」あるいは「自分は知らずにセクハラに近い行為をしていた」といった気づきがあるかもしれません。
おそらく、私たちの職場で多く目にするのは「環境型セクハラ」ではないでしょうか。
このタイプのセクハラは、加害者にはそれほど悪意はないケースが多いです。
「冗談のつもりだった」「ふざけただけ」「セクハラになるなんて知らなかった」といった知識や意識不足が原因であることがほとんどです。
そのため、正しい知識をつけて、意識するだけで加害行為は減らせるでしょう。される側も、「この行為ハセクハラにあたる。やめて欲しいと伝えよう」という意識を持てば、被害を拡大させることはありません。
問題は「対価型」のセクハラです。
このタイプのセクハラは、周りに見えないところで陰湿に行われることが常です。そのため、被害者は誰にも相談できず悩んでいることがあります。
セクハラの問題は、「職場恋愛をどこまで認めるか」「恋愛は自由ではないか」といった問題と重なるため、解釈が難しいものです。
しかし、誰もが心地よい職場で働く権利を持っているはずです。
セクハラ被害者は女性に限りません。男性であっても苦しんでいる人がいます。できるだけ正しい知識を身につけ、お互いを思いやることで、職場の環境を良くしていくことができます。
対価型セクハラに悩む人は職を変える準備を
「環境型」のセクハラよりも、「対価型」セクハラの方が被害者が固定しやすく、ターゲットになっている人は誰にも相談できません。
被害者がうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害、トラウマのようなもの)を患ってしまい、人生の大切な時間を治療に費やしているという話もよく聞かれます。
そのように、被害者の心に深刻なダメージを与えるのが「対価型」セクハラといえます。
「上司に性的関係を迫られ、断ったら降格された」「愛人になれと取引先の部長に言われ断ったら担当から外され減給された」
あなたがもしこのような対価型のセクハラを受けているのであれば、職を変える準備をしておくことをお勧めします。
加害者が運よく行為をやめてくれて、働きやすい環境が戻ってくる可能性はゼロではありません。
しかし、社内の人に相談しづらく、援助してくれる人も簡単に見つかりません。
セクハラの多くは陰で人にわからないように行われるため、自力で改善させていくというのは想像以上に難しいものです。
また、被害者がセクハラを我慢してしまうのは、「この職場以外に行き場がない」という閉塞感があるからです。
このままでいると、セクハラも嫌だが職場からも逃げられないという葛藤から、結果的に心の病となってしまうかもしれません。
そのため、最悪の場合は職場を変えて、新たにやり直すための準備をしておくことをお勧めします。
まずは、今すぐ仕事を辞める必要は全くありません。できる限り、職場の環境を改善してもらえるように働きかける方が先です。
ただし、水面下で転職の情報を集め、「最悪の場合の行き場」を確保してください。
転職サイトに登録して求人情報を閲覧したり、エージェントに相談にのってもらったりして、あなたらしいキャリアを継続できる方法を考えてみましょう。
今の職場にいるだけでは思いつかないような、適性の活かし方が見つかるかもしれません。そうすると、セクハラに耐えてまで、今の職場にしがみつく必要がない、と理解することができるはずです。
対価型セクハラの加害者は、行き場を持たない女性を狙います。
被害を受けている人は、心の余裕を作り、居場所を確保してください。