大げさにならずに自分でできるセクハラの対処法

職場のいじめ・ハラスメント

職場でセクハラにあっていると、仕事がしにくくて辛いものです。

何とかやめてもらえれば、安心して仕事に取り組めるのに……。

会社を辞めたいほどでもなく、加害者を訴えるほどでもないようなセクハラの場合、自分で何とか対処することができればいいのに、と思う人もいるでしょう。

今回は、退職せず、訴訟などを起こすことなく自分でセクハラ対処をする方法について考えてみましょう。

「アサーティブ」な主張方法を身につけるのが基本

セクハラなどの行為を受けていても、いきなり会社の人事部に通告したり、行政指導を依頼して調査に入らせたり、弁護士からの内容証明郵便を送るという方法は、ことを荒立てる可能性があります。

そこまでを望んでいない人や、おおげさな方法でないやり方で行為をやめて欲しいと思う人は、まず「アサーティブ」「アサーション」という手法を身につけて、自分で「辞めて欲しい」と伝えられるように頑張りましょう。

アサーションとは、自分の気持ちに耳を傾けながら、相手のことも尊重して、素直に自己主張する方法のことです。この技術を身につけることで、「私は〇〇という行為を嫌だと思っています。辞めてほしいと感じています」と、素直に、柔軟に、相手を尊重して自己主張ができるようになります。

アサーションの基本的姿勢には3つの重要なポイントがあります。それは以下のようなものです。

  • 自分の気持ちに素直になり、自分を尊重する
  • 穏やかで柔らかい言い方で相手に伝える
  • 相手のことも尊重する

自分の気持ちに素直になり、自分を尊重する

アサーションの第1ステップは、自分の気持ちに素直になり、自分を尊重することです。

誰にでも「嫌なことは嫌だ」という権利があります。職場の上司から性的関係を迫られて、そのことが嫌であれば、「嫌だ」と思ってもいいですし、「嫌だ」と言って良いのです。

セクハラの被害を受けやすい人は、日頃から自分の気持ちを隠しやすく、自己主張が苦手な人が多い印象です。特に女性は幼い頃から自己主張をすることをためらい、我慢する傾向もあります。

そのため、「自分は今、どう感じているのか」と素直に自分の気持ちに耳を傾けること。

そして、嫌なことややめて欲しいことは、「嫌だ」「やめて欲しい」ときちんと主張しても良いのだということを理解しましょう。

穏やかで柔らかい「言い方」で伝える

しかし、自分が嫌だからといって、主張の仕方が一方的であったり、攻撃的な言い方をしたりしてはいけません。

また、相手を無視するとか、陰で悪口を言うなどの行為で、間接的に相手を攻撃するようなことも、問題をこじらせるだけです。

そのため、言いたいことを、穏やかに、冷静に、柔軟な態度で伝えるようにします。

また、セクハラ行為をする加害者に「やめてほしい」と主張するだけではなく、別の人に相談する方法も考えていかなければなりません。

その際も、相談する相手に対して自分の主張だけを一方的にするわけにはいきません。相談を受ける人の気持ちや立場にも配慮し、相手が負担なく対応できるような言い方をすることも重要になってきます。

相手のことも尊重する

そして、相手には相手の感情があり、考え方があるということを理解しておくことも大事です。

あなた自身を尊重し、相手も尊重する。それが、アサーションの一番大事なポイントです。

セクハラという行為をしてくる相手にも、何か事情があるはずです。

あなたのことが本当に異性として好きだから、好意を伝えているだけかもしれません。

あるいは、どのような言動がセクハラにあたるのかを知らないために、無遠慮な発言をしているだけかもしれません。

いきなり相手をやっつけ、反省させ、損害賠償などを請求することは、相手の事情を一切無視した行為です。

そのため、まずは相手のことも考えながら、自分の考えを伝えて、お互い歩み寄るようにしてください。

被害別対処の仕方

それでは、セクハラの具体的被害別に、アサーティブな方法で「やめてほしい」と伝える方法について考えてみましょう。

セクハラの定義については「環境型」や「対価型」など分けられていますが、基本的にあなたが嫌だなと思う性的な言動はすべてセクハラであるとして対応策を考えます。

仕事中に、不愉快な性的言動をする行為はセクハラにあたります。例えば、以下のような行為です。

  • なれなれしくあなたの身体に触れてくる
  • 「彼氏とはどこでデートしているの?」「昨日は彼氏と仲良くしたの?」などプライベートなことを詮索してくる
  • 「胸が大きいね」「スタイルが良くてセクシーだね」など、たとえ褒めているつもりであっても、異性としての身体的特徴を言う
  • 「おばさん」「ねえちゃん」「〇〇ちゃん」「そこの女の子」など、仕事の場ではふさわしくない呼び方をする

基本的にこういった言動には、「悪意」が見られないこともあります。行為者が「何がセクハラに当たるのかわかっていない」「相手を不快な気持ちにさせていることを意識していない」ということが考えられます。

そのため、このような言動をやめて欲しい場合、アサーティブな方法では伝えるには以下のようにします。

  • あなた自身の気持ちを「私は〇〇と思っている」と素直に感じる
  • 行為をしている人の気持ちや、セクハラへの意識度合を想像してみる
  • 相手を傷つけない言い方を考えてみる

このような基本を踏まえると、以下のような伝え方が考えられます。

<身体に触れるのをやめて欲しい場合>

私は、仕事中に突然肩に触れられると、驚いてしまいます。動揺すると集中も途切れてしまうので、ミスにつながることがあります。(自分の気持ち、考え

〇〇さんに、悪意がないことはよくわかっています。気遣ってくださっているお気持ちも、ありがたいと思います。(相手の気持ちに配慮

でも、業務中はどうしても集中したいので、できれば今後は、何が要件がおありでしたら言葉で呼んでいただけますでしょうか。(傷つけない穏やかな言い方

<プライベートな性関係を詮索するのをやめて欲しい>

私のプライベートな異性関係を聞かれると、恥ずかしいですし、他の人にも知られるのはとても困ります。私はまだ未婚ですし、両親からも「職場でお前の異性関係について何か言われると困るな」と心配されています。(自分の気持ち、考え

〇〇さんは、飲み会のときに盛り上がって、そのようなことをおっしゃっているだけだとは思います。私も、彼のことを色々ご相談したため、相談に乗ってくださっているだけかもしれません。(相手の事情の配慮

ただ、やはりプラベートのことですし、仕事に影響するのも困ります。今後、私は彼のことを職場では話題にしないようにしますのでご協力お願いします。(傷つけない穏やかな言い方

<身体的特徴を言うのをやめて欲しい場合>

私は、胸が大きいことをとても気にしています。周りの人に見られたり、指摘されたりすると、とても辛いです。(自分の気持ち、考え

〇〇さんから言われるのであれば、褒めてくださっているということがわかるのですが、それでも少し傷つくことがあります。(相手の事情の配慮

私も、そのように指摘される服装をしているなど、至らない点があったと思いますので、今後気を付けようと思っています。(「やめて欲しい」の遠まわしな言い方

<おばさん、ねえちゃん、そこの女の子など仕事の場ではふさわしくない呼び方をされたくない場合>

私は、おばさんと呼ばれると、やはり悲しい気持ちになります。(自分の気持ち、考え

〇〇さんは気さくな方ですし、悪気がないのはわかっています。(相手の事情の配慮

でも、やはり気になるので、私のことは、他の方と同じように苗字で呼んでくださるとありがたいのですが。( 傷つけない穏やかな言い方

このように、自分の気持ちを尊重しつつ、相手にも配慮し、穏やかな言い方をするといった3つのことを押さえておけば、トラブルにならない伝え方ができます。

また、改善されない場合は「他の人に相談する」「会社の労務管理部門に通告する」といった「次のステップ」を考えている人も、ここで上手く伝えておきましょう。

<性的関係を断ったために不利益な扱いをするのをやめて欲しい場合>

交際を断ってから、私は仕事の重要な役割からもおろされ、会議でも発言させてもらえないなどの扱いを受けていると感じています。(自分の気持ち、考え

〇〇さんは、私に対してそのような不利益な扱いをしているつもりはないかもしれません。私の勘違いでしたら、すみません。(相手の事情の配慮

しかし、私にとって仕事での環境はとても大事だと思っています。

もし、〇〇さんがご理解いただけなければ、会社の労務相談室に一度相談するつもりでいます。

その前に、一度〇〇さんにご協力いただきたいと思いまして、今回思い切って相談しました。(穏やかに言いつつ、聞き入れない場合は他の人に相談するという警告

このように、感情的にならずに、誠実に伝えることがポイントです。

しかし、実際にやろうと思うと難しいことなので、何回か練習しないと上手くできないかもしれません。

自分で対処しようと思ったら、計画的に上記のような内容で「伝える文章」を組み立ててみて、何度か練習してみてください。

一番良くないのは、我慢に我慢を重ねて、ついに堪忍袋の緒が切れて感情的な態度で言いたいことを言ってしまうことです。

そのような態度をとってしまうと、「セクハラだセクハラだと大げさだ」とか「勘違いしている」などと思われてしまい、不利になることさえありますから注意しましょう。

対処が上手くいかないときのために

自分で意思表示をして、何とかわかってもらおうとすることは勇気がいることです。それができた自分に自信を持って欲しいと思います。

しかし、相手の悪質度によって、反応は違うでしょう。

すぐにわかってくれて、態度を改めてくれる人もいるかもしれませんが、何度言っても理解しない人もいます。

その場合は、「ついに堪忍袋の緒が切れて!」となる前に、一度誰かに相談してください。

ただ、社内の人に相談をしても、正しく相談に乗ってくれる人が見つかるとは限りません。

また、行政や弁護士に依頼するほどでもなく、事を荒立てたくないという気持ちもわかります。

そもそも、セクハラの悪質な加害者は、そういった外部からの調整で身を改めるタイプの人ばかりではありません。

我慢しなければならないのはなぜか?

セクハラは、心を傷つける許されないものです。

しかし多くの人が、被害を我慢しています。それはなぜでしょうか。

おそらく、「働かなければお金に困る、年齢的にも他に行く場があるわけがない」などと思い込んでいるからです。

このように閉塞した考えでいると、職場から逃げることができず、セクハラ被害にあっていても我慢しつづけてしまいます。

まだ、堪忍袋の緒が切れて、相手を拒絶したり、裁判に訴えたりするようなパワーがある人はいいでしょう。しかし、そのような勇気がない人の方が大半です。

このまま、「この職場しかない」と思い込んでいるなかで、嫌なセクハラを我慢しつづけた結果、心の病を発症してしまう人もいるのです。

一旦うつ病などの心の病になってしまうと、治るまでに大変な時間とお金がかかります。

後から被害を補償してもらおうと、加害者や会社側を相手取って裁判をする人もいますが、通常は判決が下りるまでに1年以上かかります。

その間、その人の人生は止まってしまい、暗くて長い闘いを強いられるのです。

視野を広げよう

そうならないためにも、セクハラの被害に困っている人は、「この職場にしか居場所がない」という環境から抜け出して視野を広げてください。

まずは、いざというときのために、貯蓄と転職の準備をしておきましょう

今すぐその職場を去る必要はありません。上に述べたように、自分で対処しようとしたり、誰かに相談したりして働きやすい職場になるように、まずは努力をするといいでしょう。

しかし、セクハラをする人は、陰でしつこく行為を繰り返してきます。

きちんと「嫌だ」と伝えて理解したと思ったのに、また同じようなことをしてくることも考えられます。また、行為を非難されたと思って、仕事上の不利な対応をし、報復をする人もいます。

また、誰かに相談したところ、まずい対応をされてしまって、余計問題が大きくなってしまうというケースも考えられるのです。

そのため、最悪の場合は職場を変えて、新たにやり直すための準備をしっかりしておくことをお勧めします。

まずは、退職を決意しても最低3か月くらいは生活できる程度の貯金をしましょう。

金銭的な余裕があれば、セクハラに我慢できなくなって辛いときに、辞めることができるからです。

また、どうしても加害者が許せない場合は、裁判に訴えることも考えるはずです。

その際は、弁護士に依頼する必要がありますが、相談費用や前金、着手金として、10万円~20万円くらいのまとまったお金が必要です。

今は裁判など考えていなくても、「いざとなったら弁護士と共に闘おう、その費用はある」と思うことで、心強くなります。

さらに、在職中であっても転職の準備をしておきましょう。

これも考え方は貯金と同じです。

辛くなったら、うつ病になったり適応障害などになったりする前に、辞めて職を変えたら良いのです。「働く場所はほかにもある」「キャリアは他の職場でも継続できる」と思うことが大事です。

今すぐ転職しなくていいので、転職サイトに登録して、現在どのような求人が出ているのかを見てみてください。

今の職場において、セクハラに耐える状態から抜け出して少しでも視野を広げるためです。一歩でも行動しましょう。

転職サイト(エージェント)のコンサルタントは外部の人ですから、社内の人に相談できないことも相談できます。今のあなたの苦しみを話して、どうしたらよいか助言してもらうのもいいでしょう。

そして、あなたの適性やキャリアについて分析してもらいましょう。

適した職場があれば紹介してもらえます。また「人間関係のわずらわしさから逃れたい」といった希望があるなら、それも率直に相談して一緒に考えてください。

外部の人の方が気軽に話すことができるものです。

そういった活動をすれば「自分にはキャリアを継続できる職場だってあるし、助言してくれる人がいる」と思うことができるようになります。

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