転職を考えるのは、現状に不満がありその環境を変えたいと思ったのがきっかけでしょう。
転職して理想のキャリアを手に入れた」「年収が数十万円アップした」といった情報を聞くと、転職をすればあなたの問題がすべて解決するかのように感じてしまうのも無理はありません。
しかし、転職にはメリットもありますが、当然リスクもあります。
転職のリスク
今、転職をしようかどうか迷っている人は、転職のリスクについてきちんと認識し、覚悟をしてのぞみましょう。
転職後に後悔しないためにも、あらかじめ危険性を知っておくことが大事です。
給料が上がるとは限らない
今の会社の給料が安いために転職を迷っている人がいると思います。しかし転職をして給料が上がるとは限りません。
平成27年 転職入職者の賃金変動状況別割合(%)
年齢区分 | 増加した | 変化なし | 減少した |
20歳~24歳 | 45.1 | 30.6 | 22.0 |
25歳~29歳 | 39.9 | 29.3 | 29.4 |
30歳~34歳 | 38.5 | 30.7 | 26.7 |
35歳~39歳 | 36.9 | 28.5 | 33.2 |
厚生労働省 雇用動向調査
上記は平成27年厚生労働省の雇用動向調査のうち、転職した人が新しい会社で得られる賃金の変動を調べた結果表です。
賃金が増加したという人は、20代前半で45.1%です。20代後半以降になると、賃金が増加したという人は4割に満たないのがわかります。
6割以上の人たちが、前職との賃金・給与額が「変化なし」あるいは「減少した」となっています。
ちなみに20代前半の人において与が上がる割合が多い理由は複数ありますが、一番大きい理由は、年齢層が低いほど前職の給料がもともと安く、転職後の給料が高くなるケースが多いためです。
そのため、もともと給与額が一般的な同年代の賃金水準と同じくらいあるいは高い人は、転職によって年収アップ・給料アップが見込める割合は、20代後半以降と同じく40%前後だと思われます。
転職をすることによって、年収がアップする人は、20代前半の若い人で45%、20代後半以降は40%と認識しておきましょう。
入社したら数年間は「新人扱い」
たとえ前職で10年の経験があり年齢が高くても、新たに入社する会社では新入社員になります。
会社風土にもよりますが、新人は新人らしい扱いを受けるのが当然のことです。
お茶くみやそうじ、雑用、運転手、その他業務に直接関係はなくても必要な雑務を与えられる可能性は高くなります。
さらに年下の上司の下に配属されることもあり得ます。
年下の上司や先輩にも敬語を使い、報告連絡相談といった部下としての基本業務は、当然きちんと遂行しなければなりません。
思っていた仕事とは違う可能性も大きい
転職活動を始めてさまざまな求人情報を見ていると、面白くやりがいもありそうで、自分の職歴も活かせそうに感じるものです。
しかし求人誌や求人サイトは、応募者をたくさんあつめるために実際よりもよく見せるように工夫して書かれています。
転職経験者を相手にアンケートを行うと、毎回およそ4割程度の人が「思っていた仕事ではなかった」と回答します。
実際に仕事をしてみないと、どのような大変さがあるのかはわかりません。
考えてみれば当たり前のことですが、「転職したい」という気持ちでいるときには、「自分は絶対に思った通りの仕事に巡り合える」と思い込んでしまいます。
しかし現実は、入社してからでないとその仕事が本当にあなたに合った最適な仕事かどうかはわからないのです。以下は、ありがちな転職後に思っていた仕事内容とは違うといった意見です。
・英語力を活かせると思っていたが、思っていたよりも英語を使う機会が少なかった
・やりたい仕事ばかりではないのはわかっていたが、やりたい仕事とは関係ない業務の割合が多すぎた
・その会社独自のルールがあって前職のやり方が全く通用せず一からのスタートになった
このように、実際は入社してみないとわからないことが多いということは覚悟しておく必要があります。
成果が出せないときの厳しい待遇
転職者は、期待された成果が出せないときに厳しい判断をされがちです。
望んだ成果が出せないために昇給が止まったり賞与額が伸びなかったりなど、待遇面で厳しい評価をされることもあり得ます。
ここが新卒社員と転職者との大きな違いです。
新卒社員は将来の伸びしろを買われて採用されています。
そのため会社側は、配属した部門・部署でうまく育たなかった場合には他の部署に異動させて育成をします。会社側は、新卒社員の教育・育成の義務があり、育つまではある程度の年数、見守ってくれます。
これに対し中途採用で入社する転職者は、通常「即戦力」「専門性を持つ経験者」として採用されます。
したがって転職者が期待したとおりの成果をあげるか否かの評価は、すぐに行われます。新卒の社員とは違い、育つのを見守ってはくれません。
昇給が止まったり賞与額が低くなったりなど、露骨な冷遇をする会社もあります。
そうでなくとも、期待される職務能力が発揮できないときに、あなた自身がその場での雇用に安心できず、焦ったりストレスに感じたりといった状態になる可能性は十分にあります。
退職金の総受給額で不利に
転職をすると退職金や年金の受給の面では不利になります。
退職金は、会社側が設計運用しているものですが、一般的には勤続年数によって、支給額が変わります。勤続年数が長い人が多くの退職金を受け取ることができ、勤続年数が少ない人には退職金額は少なくなります。
最近では退職金制度の設計を変えて、「加速度的に支給額が増加するしくみ」を廃止している会社も多くなってきました。
しかし依然として退職金は勤続年数が長い方が支給額は多くなるようになっています。
退職金の世間相場
ここに退職金の世間相場を関する資料として、東京都産業労働局が調査集計した「大卒の勤続年数別退職金モデル統計表(自己都合退職)」を示します。
※この表はあくまで調査結果であり、実際の額はあなたの会社の退職金規定によります
従業員数 |
||||
100人~299人 | 50人~99人 | 10人~49人 | ||
勤続年数 | 年齢 | 支給額 | 支給額 | 支給額 |
5年 | 27歳 | 483,000 | 487,000 | 435,000 |
10年 | 32歳 | 1,329,000 | 1,357,000 | 1,192,000 |
15年 | 37歳 | 2,585,000 | 2,704,000 | 2,314,000 |
20年 | 42歳 | 4,625,000 | 4,617,000 | 3,927,000 |
25年 | 47歳 | 7,594,000 | 7,217,000 | 5,947,000 |
30年 | 52歳 | 10,712,000 | 10,164,000 | 8,364,000 |
33年 | 55歳 | 12,944,000 | 12,349,000 | 9,806,000 |
これを見ると、退職金支給額は勤続年数によって大きく差があることがわかります。
勤続5年から10年未満の退職金と、勤続10年以降の額を見ると、倍以上の差があります。ここからも10年未満での転職は退職金受給額では非常に不利と言えます。
1千万円以上のまとまった退職金を希望しているのであれば、30年以上の勤続が求められます。
しかし転職は勤続年数を途切れさせることになるため、退職金の支給額は減っていくことを覚悟しないといけません。
なお、同じく東京都産業労働局の調査では、自己都合退職のうち勤続3年に満たない場合は支給しないという会社は52.2%となっています。
入社して3年経っていない段階での転職であれば、退職金が支給されない可能性があります。
転職を決断する前に
それではリスクを負ってでも転職をするか否か、以下の項目について十分検討してみましょう。
転職するしか方法がないか
現在の問題を解決するには転職するしか方法がないのであれば、転職という選択が一番です。
たとえば転勤を命じられたものの、家庭の事情などで地元を離れるわけにいかないが、転勤を拒否することもできない、などの理由があてはまるでしょう。
しかし転職するしか方法はないといった事例は多くはないはずです。
目の前に大きな障害があると、解決するためには○○しかない、と思い込んでしまいがちです。
感情的になっているときや、八方ふさがりに感じるときこそ、一旦冷静になって考えるようにしなければいけません。
一時的、感情的、衝動的ではないか
あなたの転職への決意は衝動的なものではありませんか。一時的な感情で会社を辞めてしまっては、後悔するのは目に見えています。
最近起こった出来事で、つい感情的になって転職を思いついたのではありませんか。よくある衝動的な転職希望は以下のようなものです。
1)部署が変わって、適性のない仕事を割り当てられてしまった
2)人間関係に大きな変化があった。自分と相性の悪い人が上司や同僚になった
3)業務上の失敗をしてしまい、部署内に居辛くなっている
もし上記のようなことが今のあなたにあてはまっているのなら、解決のために一番大切なことは、今の会社で少し時間をおいて、自分の心の動きや周りの様子を冷静に観察することです。
少し時間がたつと、適性がないと思っていた部署でもうまくやれるようになるかもしれません。
あるいは相性が悪い上司との関係が変わってくるかもしれません。
業務上の失敗や恥をかいたエピソードがあったとしても、時とともに記憶は薄れていくのです。
今の状態を変えるためには、転職をすることだけがベストではなく、転職せずに現職でしばらく様子を見るといった選択肢もあるはずです。
決断の前に冷静に自分と向き合うこと
後悔のない転職をしたいのであれば、決断をする前に自分に正直になって考えてみなければなりません。
あなたが転職したいのはなぜですか。これまで述べたようなリスクがあったとしても、今いる会社を退職したいですか。一時的な気持ちではないですか。
もし、転職する理由がはっきりせず迷っているのなら、転職することの危険性も踏まえた上でもう一度冷静に自分と向き合わなければいけません。
特に、以下にあげるのは、甘い感覚で転職に踏み切る人の考え方です。このような感覚で転職に踏み切ると、後悔することがあります。
今の仕事から逃げたい
仕事内容がつまらないから、あるいは人間関係がうまくいかないからなど、嫌なことがあり、それから逃れたいために転職を考えるケースです。
特に新しい職場で何かをしたいわけではなく、現在の労働環境が悪いわけでもないのに「とにかく現状から逃げたい」という思考です。
華やかな仕事に就きたい
一通り今の仕事に慣れて、飽きてき始めた3年目くらいに多いのですが、一見華やかに見える「広報」「マーケティング」「企画」などに就きたいと転職を望む人がいます。
「華やかでスポットライトを浴びる仕事をしている自分」に生まれ変わりたいという人に多いようです。
あるいは人に職業を聞かれて「事務をしています」「営業です」「生産管理をしています」というよりも、一見華やかな職務を挙げたほうがかっこよく聞こえるから、という理由の人もいます。
また、単に今の地味な仕事に飽きて新しい仕事をしたいだけというケースもあります。
スキルアップをしたい、もっと学びたい
仕事を資格取得スクールと思っているのか、「今の仕事では経験できる範囲が狭い」とか、「せっかく取得した資格を活かしたい」というように、仕事というよりも自分自身のスキルアップを目的とするようなタイプです。
仕事の中で新たな経験や自分の能力を最大に生かしているという実感がないと落ち着かず、新たな学びを求めて転職を考えます。
このように甘い考えで転職を決めてしまうと、リスクを負った割には思うような結果につながらないこともあります。
なぜなら、あなたの考え方に甘いところがあるままであれば、転職してもその先で同じことを繰り返すからです。
転職をした方がいいケース
しかし人によっては、リスクを負ってでも転職をしたほうがいい人がいます。あなたがそのパターンに当てはまるか、確認してみましょう。
労働条件が劣悪すぎる
労働時間や休日休暇、職場での衛生面が劣悪すぎる場合は、転職したほうが良いケースといえます。
労働時間の一つの判断基準としては、月の残業時間が80時間を超える場合です。
月に20日出勤とすると、1日4時間以上残業をすることになり、1日に12時間働く計算になります。
これは、今の労働行政上「過労死ライン」と呼ばれている労働時間です。
月の労働時間が80時間を超える仕事を長期間つづけていると、過労死を引き起こす可能性があるという判断基準です。
この基準は絶対的なものではありませんが、このような環境で長く働き続けると過労死を招く病気になりやすいのです。
クモ膜下出血や心臓病、うつ病などが代表的な過労死を招く病気です。このような労働環境に居続けるというのは発症のリスクを高めます。
また危険作業が多かったり危険物質にさらされる時間が長かったりする職場環境で働きつづけることも、健康障害を引き起こすリスクになります。
社の運営に違法性が見られる
会社が違法行為をしている場合は、転職を検討したほうがいいケースになるでしょう。例えば、営業活動に必須の免許がないのに事業運営しているとか、あきらかに価値の低いものを高額で売りつけるような詐欺行為があてはまります。
違法行為に近い行為をする社員がいる
社内に違法行為に近い行為をする人がいて、あなたが具体的にその被害にあっているのであれば、転職を検討したほうがいいかもしれません。
例えば暴力暴言を日常的に与えてくる、お金を盗む、性的接触を迫るなどがあげられます。
さらにこういったハラスメント行為を放置する会社であれば、あなたがその会社に居続けることがリスクとなるでしょう。
家族、友人からも転職を勧められている
あなたのことを親身に思ってくれる家族や友人が、今の職場から離れて転職をしたほうがいいと勧めているのであれば、転職のタイミングかもしれません。
「体調が悪く見える」「精神的に不安定に感じる」「とても疲れているように見える」などと頻繁に言われるのであれば、自分で気づいていないところで、今の仕事環境からくる悪影響が見られるのかもしれません。
最終的には、転職のリスクと転職のメリットをはかりにかけて、あなた自身が決めなければなりません。
転職にはさまざまなリスクがあります。その危険性を知らないまま、甘い考えてなんとなく転職しては、後悔することになります。
しかし、今の仕事を続けるほうが不幸になるという人もいます。
そういった人であれば、リスクを負ってでも転職にチャレンジした方がいいでしょう。