秘書の仕事に転職したい人はとても多いようです。華やかなイメージもあり女性には人気の職業です。
秘書にはやりがいもありますが、独特の難しさもあります。未経験で秘書を目指すのであれば、秘書業務に必要な適性や、採用側の会社が見ているポイントをつかんでおく必要があります。
また、「秘書室」へ転職したいのか「個人秘書」としての転職を希望しているのかで、面接の内容も志望動機の伝え方もまったく異なります。
事前準備を間違えると、書類審査も通らないまま不採用になることがあります。
そこで今回は、秘書室と個人秘書の違いと、それぞれにおける志望動機のアピール方法について解説します。
秘書の仕事
秘書とは、社長や役員など会社における上層部の人の日常業務をサポートする仕事です。
上司の仕事そのものを補助するのではなく、上司が仕事に専念できるように本人が望むすべてを引き受ける役目となります。
会社の上層部の人は、本業以外にさまざまな関連業務を抱えています。外部の関係者との関係づくり、応対、出張、講演活動などです。
さらに私生活面での補助を秘書が引き受けることもあります。
実例ですが「子どもを学校まで送ってほしい」「家内が主催する講演会の司会をしてほしい」などの仕事を秘書にさせている役員もいます。
このように秘書の仕事は「雑用も含め上司がのぞむ仕事すべて」ということになりますが、秘書業務の代表的なものは以下のような仕事です。
書類作成/スケジュール管理/会食手配/出張準備・手配/電話応対、来客応対/会議室予約、会議準備/お礼状、案内状、年賀状、贈答品などの手配/旅費・交通費・接待費などの経費精算/打ち合わせ同行、会議の議事録作成/運転
会社によっては、明確に「秘書」という役割を置かず、総務や人事担当者の中から、役員と相性の良い人に秘書的業務をさせているところもあります。
秘書に向く性格・適性
秘書業務に向く性格や適性はどのようなものでしょうか。
上司のために影の人になれる人
秘書におけるメイン業務は「人の補助」です。そのため「人の役に立ちたい」という基本的な感情を持つ人でないと務まりません。
自分のためではなく、常に上司が助かるようにと心から思える人でないと、あなた自身が辛い思いをします。どれだけ仕事を完璧に行っても、秘書自身が社内で評価されることは少ないからです。
さらに専門職とみなされがちですが、社内で出世して、秘書自身が権力・権限を持つことはあまりありません。
華やかなイメージのある秘書ですが、実際は「影の人」に徹しなければならない役割です。
柔軟で臨機応変な対応ができる人
秘書業務にはマニュアルはありません。
なぜならば、社長や役員のような人は、状況変化の中でビジネスを動かしていて、決まった通りに日々の業務を進めることなどできないからです。
取引先など、関係者が絡むため、なおさら頻繁に変化が起こります。
そういった状況では「何とかしておいて」といった指示をする上司もいます。
それを柔軟に、臨機応変に対応しなければなりません。緊急事態のときは自分で考えて最善の方法を提案することも求められるのです。
そのため、周りの人から「よく気がつくね」「要領がいいね」と言われる人は、秘書の適性があります。
几帳面で品の良い人
秘書の業務には、日々のスケジュール管理や書類作成・管理など細かい仕事があります。
経営者の業務補佐をするわけですから、ミスがそのまま経営問題に発展することさえあります。
そのため秘書を目指す人は、几帳面で丁寧な仕事ができなければなりません。おおざっぱな人や雑な人は務まりません。
多少神経質であったり心配性であったりなど、細やかな性格の人のほうが向いています。
さらに贈答品の選定や、高級店での接待なども役割の一つです。あまりにも庶民的であったり品が悪かったりする人にはそういった仕事を任せられません。
一般的以上のマナーと品格がある人は秘書に向いた適性を持っているといえます。
社会人経験があれば未経験でも秘書になれる
秘書の求人には、「未経験でも大丈夫です」のように書かれていることがあります。事実、未経験で秘書に転職できた人はたくさんいます。
むしろ、新卒で何も社会経験がない人よりも、一度社会に出ていてビジネスマナーを習得している人のほうが適しています。
実際、新卒社員をいきなり秘書に任命することはほとんどありません。
社長や役員の業務は対外的なことが多く、社の事情に精通していて、かつ高度なビジネススキルを持っていないと務まりません。そのため新卒社員に任せることができないのです。
そのため新卒者よりも転職者のほうが、社会人経験があるため未経験でも秘書として採用される可能性が高いのです。
必須スキルはビジネスマナーとPCスキル
未経験であっても秘書に転職できるといっても、ビジネススキルとPCスキルは必須としているところが多いです。
秘書は、来客応対や電話応対、会議会合の開催運営、重役の交友関係の管理などビジネスの上層部とのやり取りがあります。そのためビジネスマナーは必須です。
それ以上に冠婚葬祭や贈り物の贈呈、接待なども秘書が担当します。冠婚葬祭マナーや慣習など周辺知識がある人が求められます。
PCスキルは、ワードやエクセルといった書類作成ソフトは使える必要があります。メールの送受信やネットを使った宿泊施設の予約など、スケジュール管理系のビジネスソフトもスムーズに扱えないといけません。
また、「日常会話程度の英会話力」を求めている会社も多くあります。
外資系企業で高度な英語力が必要な場合は「TOEIC800点以上」など具体的な基準を示しています。
しかしそれほど高度な英語力は必要なくても、取引関係に外国企業を持つ会社だと、英語でのメールのやり取りや電話応対の業務があるため、英会話力がある人のほうがスムーズに秘書業務に対応できます。
社長含め重役の英語力を補佐するために日常会話程度の英語力を求める会社もあるようです。
給与面は一般事務より若干高め
秘書の給与は、一般事務職よりも若干高めに設定されています。
しかし秘書だから給与が高いというよりも、求める専門性によって高低差があるようです。求める専門性が高ければ、その分給与も優遇されます。
例えば外資系企業の役員秘書などは給与が高めです。多いところでは「650万円以上」などの求人もあります。
しかしその応募の条件は英語力がTOEIC800以上などとなっています。基本的には一般事務職で、たまに役員秘書も担当しますといった程度の専門性であれば、一般事務と大きく給与額は変わりません。
秘書への転職を成功させるには
それでは、秘書への転職を成功させるためにはどのように考えたら良いでしょうか。
それにはまず、秘書の仕事には「秘書室」などのように複数で秘書業務を行う場合と、「個人秘書」として一人の上司について行う場合があり、それぞれで対策が異なることを理解しておかなければなりません。
「秘書室」の場合:一般的な秘書適性や人柄をPR
「秘書室」形態の秘書とは、複数の社員が秘書業務を行うスタイルです。
大きい会社であれば、社長を含め役員・重役が複数になります。扱う秘書業務の量が多いため、チームで対応しているのです。「総務部秘書課」や「秘書室」と呼ばれる部署名が一般的です。
こういった「秘書室」形態は、一般事務職に似た環境だといえます。少人数で連携して秘書事務を行います。特定の上司との関係というより、チーム内での人間関係を上手く築き、協力しあって働くことができる人が求められる傾向があります。
秘書室型の秘書業務の場合、志望動機や自己PRは下記のようなものが良いでしょう。
・チームでお互い支えあう仕事に適性があります
・人の役に立つ仕事がしたいからです
・几帳面なタイプです。事務処理や来客応対など細かい気遣いができます
求人側の採用担当者も、あなたを観察しながら「うちの秘書課のスタッフと上手くやれるかな」とイメージしています。
パソコンのスキルやビジネスマナーのレベルも重要ですが、チーム内になじめるかどうかの方が、採用に影響します。
そのため、面接の場面であなたは「チームワークを好む」「人間関係づくりは得意」「笑顔をたやさない」「柔軟な人柄」「人の役に立つのがやりがい」といった印象を与えるようにしましょう。
「秘書室」型の採用基準は、多くの場合「人柄」です。仕事内容が高度な専門性を持つものでなく、会社が求める人柄を持っていれば、未経験でも十分採用される可能性があります。
「個人秘書」の場合:担当する上司との相性がすべて
個人秘書の場合、求人情報には「社長の秘書として」「当社役員の秘書として」という形で募集されています。
この場合、その人個人の秘書として活動することになります。その人があなたの上司になるわけですから、転職先の会社で上手くいくかどうかは、完全に上司との相性にかかっています。
転職者は応募の前に必ず企業研究をします。
しかし個人秘書としての転職を希望する人は、担当する社長や役員についても調べておきましょう。
求人書類には代表者や役員の氏名が書かれていますから、インターネットを基に調べてみましょう。
会社のホームページには代表者の挨拶ページがあり、そこに人物写真があったり、理念や経営方針が書かれていたりします。
最近は代表者や役員も個人のビジネスブログを書いていることもあります。そこに表れている人柄、印象をあなたなりに感じてみましょう。
「この人の部下になるのは嫌だ」と思うのであれば、慎重に検討したほうがいいでしょう。
感じ方はさまざまですので判断基準はすべてあなたが「どう感じるか」によりますが、本人の記載する文章に共感できないなどであれば、もし採用された場合であっても相性が合わない可能性は高くなります。
個人秘書の場合、1日のうち10時間近くその人のサポートを行うことになります。
相性が合わない人や違和感を持つ人のために、あなたの大事な「人生の時間」を注ぐというのは想像以上にストレスになるものです。応募の前段階から調査をして臨むことをお勧めします。
会社側も「社長(役員)が気に入るか否か」で人物把握をしている
あなたの側も、社長や役員などの個人秘書への転職を考えているときに「誰の秘書になるか」を慎重に見ているのと同じように、求人側の会社もあなたのことを「社長(役員)と相性が合いそうか否か」で観察しています。
他の業務の採用基準と決定的に違うのはこの部分です。そのため、面接で問われる質問も、これから担当するべき上司からの個人的な質問が含まれます。例えば以下のような質問です。
・酒は好きか。ビールが好きかワインが好きか
・スポーツはするか。テニスやスカッシュに興味はあるか
・男性用の小物やアクセサリーに詳しいか
こういった質問は、一般の業務での採用試験面接ではほとんど聞かれません。
しかし個人秘書への応募であれば、頻繁に聞かれます。
上司と話が合うか、興味が似ているか、上司の関係者との交友に有利な趣味や知識があるか、などを確認されているのです。
これらの質問は、相性の良しあしを推察されているだけで、答えに正解もありませんしマニュアルもありません。
もしこれらの質問をされたら、正直に誠実に答えれば良いのです。
採否に影響があるか否かも、上司次第です。もし不採用になったのであれば、それは縁が無かっただけで、あなたの能力が不足していたなど理由があるわけではありません。
会社が求める人物像は求人票に明確に出ている
個人秘書は、求人を出している会社の社長や役員が求める人物像でなければ、採用されることはありません。
求人情報を見ると、イメージ写真や「こんな人を求めています」というメッセージが書かれています。
会社によってさまざまな表現が使用されていて、個人的な好みの人物像がかなり想像できる内容になっている会社もあります。応募したい会社を見つけたら、ここに書かれている人物像を徹底的に研究しましょう。
例えばイメージ写真に若くきれいな女性が出ている場合は、若くて容姿の良い女性を望んでいるということです。
あるいはキャリアウーマン風でしっかりした女性の写真が載っているとしたら、経験豊かでしっかりした女性をのぞんでいるということです。
「20代の女性が活躍しています」と書かれていたら、20代の女性以外が採用されることはまれでしょう。
「社会経験が豊かな30代の男女が生き生きと仕事をしています」と書かれているなら、第二新卒のような経験に乏しい人は採用されません。
個人秘書の業務は明らかに望む人物像が決まっているのです。
個人秘書以外の業務への応募なら、多少条件と違っていても、履歴書や面接の場面で「意欲」「前職の経験」を熱心にアピールすることで採用を勝ち取ることも十分あります。
しかし個人秘書業務における採用基準は、「上司になる人の好みの人物像」であるか否かです。
個人秘書への志望動機は「私はあなたが求める人物です」
個人秘書として転職したい人は、志望動機を工夫して、履歴書に書いたり面接で主張したりしなければなりません。
一般的に秘書業務への志望動機は「人を支えることが好きだからです」「経営者の近くでさまざまなことを学びたいからです」「変化が多く幅広い業務をテキパキ行いたいからです」のように述べることになります。
秘書であれば当然備えていなければならない正確性や迅速性、ビジネススキル、サービス精神などをアピールしながら志望動機として主張するのが王道です。
しかし注意しなければならないのは、前に述べたとおり個人秘書の場合は「上司の求める人物像」にそぐわない志望動機を主張しても、採用の対象にならないことです。
個人秘書としての転職に成功したければ、志望動機は必ず「私はあなたが求める人物像だから応募しました」というスタイルにしなければなりません。
例えば以下のような求人の場合を考えてみましょう。
社長の秘書として、さまざまな外回り業務に同行していただきます。(アクティブで明るい人がいい)
社長のお取引先もほとんど経営者。都内の高級レストランなどでの接待にもご同行いただきます。(食事の場を盛り上げてくれる人がいい)
普段は食べられないような、おいしいお食事を楽しめますよ。気遣いができる方や楽しい会話ができる方に向いているお仕事です。(経営者の話についてこられる聡明さがある人がいい)
と書かれていて、イメージ写真が30代くらいのキリッとした女性であるとします。
この求人は、通常の秘書業務よりも「経営者同士の高級接待において、華になれる大人の女性」を強く求めているわけです。
この場合、あなたの志望動機には以下のような要素を混ぜて履歴書を書き、面接で語らなければなりません。
・事務所の仕事だけでなく外回り業務もしたい。アクティブで明るい性格である
・食べるのが好き、都内のおいしいお店をたくさん知っている
・経営者に多い属性(50代以降のビジネスパーソン)と会話をする機会を求めている
・経営者の話題についていける趣味や特技がある(ゴルフ、野球観戦、ビジネス、高級食材、財務系知識、哲学)
そして面接には、イメージ写真に近い服装で、イメージ写真に載っている人物に近いだろうと思われる話し方をしなければなりません。
あなたが志望動機として語る内容は、「あなたが志望する理由」ではなく「上司になる人があなたを採用したくなる理由」でなければいけません。
このような求人に対して、秘書業務であるからといって一般的な秘書としての志望動機を述べても、相手の心に届かないのです。
さらに以下のような場合はどうでしょうか。
当社の役員を一日中お世話してくれる面倒見の良い人を募集しています。(一日中気遣いをしてくれる人がいい)
朝、東京都内の役員宅に車で迎えに行き、役員が回るお取引様など数社の送迎をするお仕事です。(車の運転が上手い人がいい)
車内でのスケジュール管理はもちろん、調べものや必要書類の手配、管理、交通手段の検討、宿泊予約など全般をお任せします。(何でも引き受け段取りよく対応できる人がいい)
また、役員は車をとても大事にしていますし送迎時にお客様に失礼にならないよう、車のお掃除・管理もお願いします。(洗車とか雑用も全部やってほしい)
この求人は、秘書といいつつ運転手であり、さらに役員の何でも屋を求めているのがわかります。
役員の雑用を要領よく引き受け、役員が行きたいところに何も指示しなくても自動的に連れて行ってくれるような「便利さ」が採用基準です。
こういった個人秘書に応募したいのであれば、あなたは以下のような要素を志望動機に混ぜる必要があります。
・運転するのが好き。洗車も含めて、車に関係する仕事に就きたいと思っている
・旅行も好きなのでスマホやノートPCを使って交通手段を調べたり宿泊予約を取ったりするのは得意
・控えめながら、細やかな気遣いができる、裏方業務が性に合っている
このように、採用側の会社は、「秘書」という言葉を使ってはいますが、「私好みで便利な人」を求めているのです。
あなたに志望動機を聞く理由は「私好みか否かを確認させてください」という意味です。
だからこそ相手が求めている人物像と自分がマッチしていることが志望動機であると主張しましょう。そうすることによって、個人秘書としての転職に成功することができます。
ひとことで「秘書業務」といっても、チームで行う秘書業務なのか、一対一で特定の上司に仕える個人秘書なのかによって、対応策が全く違います。
あなたが転職したいと思っている秘書業務がどちらのパターンなのか、一度整理してみましょう。
そして、それぞれに適した対策を練って履歴書や職務経歴書を書き、面接に臨みましょう。
ポイントを絞って準備をしておけば、採用を勝ち取ることができるはずです。