ブラック企業の特徴は、過酷な労働環境と、劣悪な人間関係にあります。
この二つが、同時に、かつ強烈に労働者にのしかかってくる環境が、ブラック企業という会社です。
こういった状態にたとえ数か月~数年であっても居続けると、普通の感覚の人間は「うつ病」などの精神疾患に罹ります。
うつ病は、単なる気分障害ではありません。ひどくなると、自ら死を選ぶことがある病気です。
ブラック企業に勤めている人は、その特有の環境のため、うつ病に罹患する可能性はとても高いと思われます。
今回は、ブラック企業にいる人がうつ病にならないための考え方を解説します。
ブラック企業とうつ病
うつ病が単なる抑うつ気分や、やる気がなくなる程度の病気であれば、それほど深刻に考える必要はないかもしれません。
しかし、うつ病は、正常な思考力を奪って、「死にたい」「この世から消えてなくなりたい」と思わせてしまう病気です。だから怖いのです。
「うつ病は心の風邪。誰でもかかるし、すぐ治る」などといった風潮がありますが、全く違います。
特にブラック企業のように過酷な環境に身を置いている人は、用心してください。
意識をしていないと、知らないうちにあなたの心は蝕まれ、うつ病になってしまうことがあります。
うつを発症すると、視野が非常に狭くなり、その環境から抜け出すための正常な思考力がなくなります。
ブラック企業はうつ病「外的要因」の宝庫
うつ病は、内的要因(遺伝、本人の性格、考え方のクセなど)と外的要因(職場環境、人間関係、ストレスなど)が絡み合って発症するといわれています。
ブラック企業に所属している人は、この「外的要因」に注意しなければなりません。
うつ病を発症しやすくなる外的要因とは、以下のようなものです。
・過重労働で長期間にわたり身体が疲れている
・睡眠時間が少ない
・休日が少なく、気分転換をしたり家族と交流したりする時間がない
・趣味などを楽しむ、生きがいを感じる時間がない
・人間関係がうまくいかない
このような要因は、ブラック企業にいる人であれば、ほとんどすべてが当てはまるのではないでしょうか。
うつ病に罹りやすい「外的要因」にさらされていて、かつその程度が重い人は、いつうつ病に罹ってもおかしくない状態にあります。
また、うつ病の原因とされる「内的要因」は、本人の性格や考え方のクセです。
これらの問題がある人であれば、気づいた時点で自分が努力して修正していくこともできます。
しかし、うつ病の原因が「外的要因」にある場合は、本人の努力ではどうにもなりません。その要因から距離をおかない限り、改善しないのです。
うつ病は正常な判断力を奪う
健康な心の状態であれば「このような会社はいつか見切りをつければよい」「この会社だけが世界ではない」などといった当たり前の判断ができるはずです。
しかし、一旦うつ病に罹ると、こういった当たり前の思考力が奪われてしまうのです。
そして、「自分にはもう道がない」「自分はもう生きていてもしかたがない」と思うようになります。
ひどくなると、死を選ぶことがあるのです。
ニュースでよく聞く「過労自殺」は、うつ病による自死の典型例です。
心身の疲れや職場の人間関係、納期限へのプレッシャーなどの「外的要因」からうつ病を発症し、本来なら選ぶはずのなかった「死」を選んでしまった人たちです。
過労自殺は自分には関係がない、自殺をする人は特別な人である、と誰もが考えがちです。
しかし、過労自殺は誰にでも起こりうるのです。その前段階として、必ず「うつ病」を発症するということを理解しておく必要があります。
うつ病を防ぐためには
基本的に、ブラック企業に勤めているのであれば、早めに退職をして次の職場へ移る必要があると思います。
しかし、生活のために、あるいは義務感のために仕事を続けなければならない人もいるでしょう。
そのように、今の会社で働くのが辛いが、すぐに辞めることができない人は、まずはうつ病に罹ることだけは避けるように日常生活を整え、うつ病にならないような考え方を意識的にしなければなりません。
うつ病の罹患には外的要因が大きく影響しますが、内的要因も関係があります。
内的要因とは、あなたの遺伝的要因や性格、考え方のクセのことです。
遺伝要素と性格は簡単には変えられませんが、考え方や行動の仕方であれば、ある程度コントロールできるはずです。
そのためには、以下のようなことに注意してください。
自分が悪いという思考をやめる
まず、今あなたが所属している会社が「ブラックだな」と感じたら、できるだけ「自分が悪い」「自分は能力が低い」といった思考をやめるようにしましょう。
ブラック企業は、その社員を管理するために、頻繁に無理な仕事を押し付けてきたり、能力が低いと思わせるようなことを言ったりします。
そういった圧力を受けたときに、無防備のままでいると、普通の感覚を持つ人は「自分がダメだから指導されるのだ」「自分の能力が低いから、会社に認められないのだ」と思ってしまいます。
これが自然な反応ですが、このまま無防備なままでいると、うつ病に罹患しやすい状態になってしまいます。
そのため、会社からの色々な「指導」「研修」「面談」「カウンセリング」と称する圧力を受けても、「自分はそれほど悪くない」「自分の能力はそれほど低くない」と考えるように努力しましょう。
難しいことであると思いますし、そのような態度をしているとますます会社からの圧力がかかるでしょう。
そのため内心でこっそりそのように考える程度でかまいません。
会社側が要求するノルマや実績が得られないときでも、意図的に「自分は悪くない」と考えてください。
これだけで、かなりうつ病に罹るリスクは減ります。
出来ないことを認める勇気を持つ
真面目で負けず嫌いな人ほど、うつ病に罹りやすいといわれています。
特にブラック企業に勤めていると、できもしない業務を与えられます。その際に、負けず嫌いな性格が全面に出てしまうと、「出来ない」ということが情けなくなってしまい、ついつい頑張ってしまいがちです。
出来ないことがあると、何とかできるようになりたいと、自分を追い込んでしまいます。
こういった特性は、学生時代は良かったでしょう。さらに普通の企業であれば、向上心として大事にしたいものです。
しかし、今いる会社がブラック企業であれば、あなたがそこで頑張りすぎる理由はありません。
頑張ったら正しく認めてくれる会社でもなく、努力したら報われる場所ではないのであれば、骨身を削って「出来る」と主張することに、どのような意味があるのでしょうか。
仕事であるのに、「出来ません」と言うことが難しいのはわかります。
しかし、うつ病に罹る人の内的要因の一つに、出来ないことを出来ないと言えないということがあげられます。勇気を出して出来ないことを認めることが大事です。
会社を信じ込まない
また、正面きって会社側と闘うことができなくても、心の中で会社と闘ってください。
まずは、会社の言い分を信じ込まないことから始めましょう。
あなたに課せられたノルマは本当に誰もが達成できるようなものでしょうか。あなたが受けている厳しい指導は、本当に業務上必要な範囲におさまっているでしょうか。
一度冷静に考えてみてください。
あなたの能力が低いから達成できていないとか、あなたの人格が未熟だから指導していると言われているかもしれません。
しかし、正常な会社はそのような無駄な圧力をかけません。ノルマの管理や社員教育も、会社の利益とのバランスを考えて行われています。
「うちの会社は大丈夫」「ブラック企業などと言っていては甘いと思われる」という意見もありますが、今働いている環境が辛いと感じているのなら、会社を信じ込んではいけません。
本当に利益を考えて運営しているのか、本当に社員のためを思っての研修や面談であるのかを、冷静に考えてみましょう。
自分だけで判断できない場合は、外部の友人や労働関係の専門家に、会社の事情を話して相談してください。
自分ひとりで、狭い環境の中会社の言われるままになっていると、何が正常で何が異常なのかわからなくなります。
外部の人の意見を聞くことで、あなたに少しだけでも冷静な判断力や考え方のよりどころができるはずです。
強制的に眠る
「会社はブラックだし、激務だけど、自分は大丈夫。うつ病とは関係がない」と思っていても、もしあなたが毎日の睡眠時間が5時間以内であれば、強制的にでも眠る時間を増やしてください。
あるいは、なぜか朝方早く目が覚めるとか、朝まで連続睡眠ができないという人も注意してください。
まだ身体が疲れておらず、気分も元気であったとしても、睡眠不足が続くと心がうつ病に傾きやすい状態になってしまうからです。
ストレスを自覚していない人でも、眠りにくくなっているということは、心身に何かの影響があるのです。
うつ病の初期症状が睡眠障害として現れるというのは良く知られています。
しかし、「自分は大丈夫」と思っていると、睡眠不足を軽く考えて放置してしまいます。
まずは、最近寝不足だなと感じたら、すぐにでも「眠る時間を強制的に作る」という取り組みをして欲しいと思います。
快眠できる環境を整えたり、睡眠に良いとされる食事やサプリメントを摂取したりして、工夫しましょう。
アルコールを睡眠薬代わりにする人がいますが、アルコールは不眠を悪化させますからやめましょう。
すでに不眠症状が出ているのであれば、思い切って薬を処方してもらうなどをお勧めします。
不眠を放置するとうつ病に罹る率が確実に高まることを覚えておいてください。
労働環境が悪くストレスフルであるからこそ、何としてでも自分を守るという覚悟で、質の良い睡眠を確保してください。
追い込まれる前に「行き場」を確保
うつ病になりかけていると、「自分には居場所がない」「自分は誰からも必要とされていない」と感じるようになります。
職場で辛い思いをしていると、誰もが居場所がないと感じるようになるものです。
しかし、心がうつ病に傾くと、より一層「自分は誰にも相手にされず、嫌われているため居場所がない」というように、極端な方向に思考が傾きます。
そのようになってしまうと、視野を広げて正常な感覚を取り戻すのがとても難しくなります。
そのため、まだうつ病に罹っていない状態であり、正常な意識を持っている間に、ブラック企業から抜け出すための準備をしておきましょう。
3か月分の生活費を貯蓄
まずは、今の収入から少しずつ貯金をして、会社を辞めても3か月くらいは生活できる費用を貯めましょう。
ブラック企業に勤めている人が、新たな会社へ転職しようとしても、勤務中に活動することは不可能に近いと思います。
長時間労働や上司・同僚からの圧力で、仕事以外に活動できる余裕などないのが現状であるためです。
そうなると、会社を辞めて転職活動をする必要があります。
しかし3か月程度の生活費を持っていないと、活動中に焦りが出てしまい、「この際どこでもいいから早く採用してもらわなければ」となってしまいます。
そうすると、次に入社する会社もブラック企業であったということが起こりうるのです。
そういった悪循環にならないためにも、3か月分程度の生活費の貯蓄を心がけてください。
あるいは体力気力の限界がいつやってくるかわかりません。
あなたの心身が悲鳴をあげたときには、すぐに自分を守る決断ができるようになるためにも、お金は必要です。
「辞めても何とかなる程度のお金」というのは、安心感という居場所を作ってくれます。
水面下で転職活動をする
また、勤務しながら水面下で転職活動を行いましょう。会社の人に言わなければ、あなたが転職を検討していることなどわかりません。
求人サイトを見て調べたり、履歴書や職務経歴書の書き方を学んだりしましょう。
そういった知識がついてくると、「自分の居場所はここだけではない。探せば、いくらでも働く場所も可能性もある」ということがわかってきます。
また、世の中にある色々な仕事を知るだけでも、気分転換になり、今自分が携わっていることだけが世界ではないことがわかるはずです。
さらに、あなたのキャリアや持っている知識・資格が、意外な企業から求められていることにも気づくでしょう。
水面下で活動することに何のリスクもありませんし、転職するという決意さえ必要ありません。
はじめは気分転換のつもりで活動してください。そして、良いめぐり合わせがあって応募したい会社が見つかれば、勇気を出して行動すればいいだけです。
うつ病に罹患する可能性を持ったまま働くというのは、人生全体を左右する「うつ病」に罹患する可能性があるため、大変危険なことであると認識しましょう。
自分を守ることができるのは、自分しかいません。
会社に適応したいという真面目な意気込みも理解できますが、それよりも、あなたと心と身体を守ることを最優先にして欲しいと思います。