給与に「手当」が多い求人は注意:残業代を少なく計算される

働く人の法律知識

もし、あなたが残業をしているわりに、残業代が少ないと感じているなら、一度給与明細を見てみましょう。

給与明細に、あなたが実際に行った正しい残業時間が書かれていても、計算の基礎となる額が少なく抑えられていると、結果的に残業代が減るという現象が起こってしまいます

給与明細に、「〇〇手当」などが多い人は、もしかすると会社側に都合よく「残業代を少なく計算できる給与体系」にされているのかもしれません。

今回は、給与に「手当」が多い人の注意点について解説します。そこから、転職時にどのように求人を確認すればいいのかについても述べていきます。

残業代を少なく計算する会社がある

残業代がきちんと支払われているはずなのに、何だか手取りが少ないと感じるときは、給与明細を確認しましょう。

そのような人の給与明細を見ると、「〇〇手当」という項目がたくさん見られます。そしてその分、基本給が安く設定されていることがあります。例えば以下のような明細です。
基本給 役職手当 家族手当 住宅手当 子女教育手当 勤続勤務手当
160,000 20,000 30,000 23,000 20,000 17,000
残業時間 残業手当
40時間 56,240

実は、「〇〇手当」をたくさん設定することによって、残業代を減らそうとしている会社があります。

まずは、残業代はどのように計算することになっているのかを、理解しておきましょう。残業代は、以下のように計算することになっています。

その月の給与額÷その月の労働時間=1時間あたりの単価 

1時間あたりの単価×残業時間数=支給される残業代

そのため、「その月の給与額額」が多い人は、残業代計算の基礎となる1時間あたりの単価が多くなります。

反対に「その月の給与額」が少なければ、基礎となる単価が少なくなります。

会社が残業代だけを減らしたいのなら、「その月の給与額」という部分を下げれば良いわけです。

「その月の給与額」を、下記に述べるような方法を使って、残業代を少なく計算している会社が実際には多く存在します。

なぜならば、残業時間の不正を行うとすぐバレますが、計算の元となる賃金額を少なくする方法は、本人にバレにくいためです。

残業時間が多いか少ないかは、労働者側であるあなたが良く知っています。「今月何時間残業したか」などは、自分でもだいたいわかりますし、タイムカードなどにも記録が残されています。

そのため、給与明細に嘘の労働時間が書かれていれば、すぐにバレてしまいます。

さらに、それを証拠に労働基準監督署などに訴えられてしまうと、「残業時間を違法に少なくしている」とみなされて、ペナルティを受けることにもなりかねません。

しかし、計算の元となる額が少なく設計されていたとしても、本人が意識していないため、わかりにくいのです。そもそも、残業代はどのように計算されるのかといったことを知らない人も多いです。

確かに働いた残業時間で計算されてさえいれば、何となく正しい金額の残業代が払われているように思ってしまいます

そのため、支払う残業代を減らしたいと思っている会社は、以下に述べる方法で、残業代の計算の基礎となる額を減らす方法を取るのです。

「手当」を増やし残業代の計算から外す

残業代計算の基礎となる単価を下げるには、どのような方法を取っているのでしょうか。

それは、給与をさまざまな「手当」として分散し、基本給を少なくして、その基本給を「残業代を計算する基礎単価」としてしまう方法です。

明らかに違法行為の方法を使う会社もありますが、中には「違法行為というほどでもないが、グレーなやり方」を取る会社もあります。

しくみは、以下のようなことです。

1時間あたりの残業代を計算する基礎となる金額の計算には、「給与の総額」を使うことになっています。しかし、法律で、次の7つの「手当」は除外して良いことになっています。

1)家族手当
2)通勤手当
3)別居手当
4)子女教育手当
5)住宅手当
6)臨時に支払われる賃金
7)1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

上記のような、「除外して良いことになっている手当」として給与を支払うことにして、残業の計算の元となる給与額を下げるのです。

しかし、本当は、除外して良い手当とするには一定の条件があります

例えば、住宅手当は社員に一律支給されるような手当である場合、厳密な意味での「住宅手当」に当たりません。そのため、たとえ名目が「住宅手当」になっていたとしても、残業代を計算する基礎額に含めなければなりません

名目が住宅手当となっていても、社員が全員同じ額をもらっているのであれば、実質は住宅とは関係のない、「給与」だからです。

しかし、巧みに住宅手当を「住宅費補助の意味」として住宅手当ということにこじつけて、残業代を計算する基礎額から抜いている会社は多く見られます。

また、「子女教育手当」なども、子育てに関連する補助などと偽ってすべての社員に支給している会社があります。

一見、このような手当があると「子育てに理解のある会社だ」と思ってしまいがちです。

しかし実質は、残業代を計算する基礎額を減らすために設定されているだけの手当というケースがあります。

賃金規定で「手当」の支給条件を確認

あなたの会社に就業規則や賃金規定があり、閲覧することができるのであれば、一度確認してみましょう。

賃金規定に「〇〇手当は一律〇〇円を支給することとする」と記載されているとしたら、その手当は残業代の計算に含まなければならない給与といえます。

「給与」から除外して良い手当は一定の条件があり、社員一律に無条件で支払われるものは、除外して良い手当に含まれません。

あなたの残業代は、基本給だけで計算されていませんか。

住宅手当や家族手当、子女教育手当などという名目であっても、どの社員にもみんな同じ額で支払われている手当はありませんか。

残業代というのは、会社側に計算方法をごまかされることが多い項目です。しっかりと正しい知識をつけて働きましょう。

転職時の注意点

給与に「〇〇手当」が多いと、残業代計算の基礎額から省かれてしまいます。これは、あなたが今の会社に見切りをつけて、新たな職場へ転職するときでも同様です。

転職活動をする際には、求人情報から、残業代計算の基礎額である「基本給」を把握しておくと、入社した後に「働いた割には残業代が少ない」という事態を避けることができるはずです。

しかし、現在の求人情報においては、基本給だけではなく、会社に都合の良い手当をいろいろくっつけて「月給」としているところがほとんどです。求人情報だけで、表示されている給与の「基本給」と「〇〇手当」の内訳は、把握できないことが多いのです。

そのため、最終面接時や内定後に、給与の内訳を担当者に確認しなければいけません。

一次面接からいきなり「給与のうち、いくらが残業代の基礎額となる基本給ですか」とは聞きづらいものです。しかし、最終面接時や、内定後には、出来る限り月給の内訳を確認しておきましょう。

その際、月給のうち「〇〇手当」という名目のものが多ければ、残業代の基礎額がその分低くなるということを覚悟して入社するか、入社を再検討させてもらうかを考えなければなりません。

あるいは、先方の企業と給与額の調整をしてくれるエージェントに依頼しているのであれば、残業代の基礎額である基本給とその他の手当ての内訳を確認してもらうようにしてください。

「各種手当あり」は残業代も賞与も低い可能性

また、求人情報に「各種手当あり」とうたって応募者を集めようとしている会社にも注意してください。

今まで述べてきたように、〇〇手当が多いというのは、会社にとっては都合の良い仕組みであって、労働者側にはそれほど有利な条件ではありません。

手当が多いと、待遇が良く社員のことを大事にする会社であるようなイメージです。しかし実際は、基本給に手当を混ぜて、残業代も安く計算できるようにしている会社もあります。

また、会社によっては賞与(ボーナス)の計算基礎を低くするために〇〇手当を導入し、月給を高く見せかけて、賞与は低いのが実態というところもあります。

求人情報でよく見る手当は、「家族手当」「営業手当」「一般手当」「勤労手当」などという名目です。

これらは、法令上では残業代の基礎となる給与からは省いてはならない手当です。

そのため、こういった手当を支給されるのであれば、残業代を計算する際はこの手当も計算基礎額に含める必要があります。

しかし、グレーなやり方をする会社は、この手当を引いた額を残業代の基礎額として、違法に残業代を払わない手法を取っています。

かつ、手当が豊富な企業として求人の場面ではイメージアップを図っているのです。

あなたがもし転職活動をするのであれば、「各種手当あり」とアピールしている会社には少し注意してください。

もちろん、すべての会社が違法あるいはグレーなやり方で残業代を低く計算しているわけではありません。

しかし、応募者側の無知を利用して、煙に巻くような方法で人を集めている会社もあることに留意してください。

そして、内定を得られたときには、手当とはどのような手当であるか、残業代の基礎額に含まれるか否か、また賞与の計算額に入るかといったことを、出来るだけ細かく確認するようにしてください。

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