職場のいじめやモラハラ、パワハラに耐えていると、誰もが精神状態が不安定になります。
もし、今職場のいじめ被害にあっていて、抑うつ気分や強い不安に苦しんでいるのなら、今後どのように会社とつきあっていけばいいのか考えておくと良いでしょう。
今回は、職場のいじめが原因でうつ病になる可能性がある場合の対応法について解説します。
職場いじめとうつ病
職場で特定の人にいじめられているとか、パワハラ・モラハラを受けている、あるいは集団で無視されているといった人間関係上のストレスを抱えている人がいます。
仕事のストレス以上に、人から受けるストレスは心を痛めつけるものです。
職場いじめの被害を受けていて、すでに抑うつ気分を感じている人や強い不安がある人、時々パニックになる人は、精神疾患になりやすい状態になっています。
例えば以下のようなことが頻繁にある人は注意しなければなりません。
- 会社のことを考えると、息苦しくなる
- 「疲れた」「辛い」が口癖になっている
- 出社しなければとわかっているが、朝起きられない
- 夜、なかなか寝付けない
- いじめの加害者のことを考えると、動機や冷や汗などが起こる
- 以前に比べて、仕事の能率が落ちた
- 何をするにも集中力が落ちた
- 以前は興味があったことが、今はほとんど興味を持てない
- 頭痛や過呼吸、めまいなどが起こることがある
- 休日でも元気が出ない、楽しみがなくなったように感じる
- 意味もなく泣けてくることがある
- 不安に襲われて動けなくなったりパニックになったりしたことがある
このような症状は、職場の人間関係を原因に起こりやすい職場不適応症(うつ病や適応障害など)の前兆です。
すでにこの項目のいくつかに当てはまっている人は、本格的なうつ病へと発展してしまう前に身を守ることを考えて欲しいと思います。
精神科、心療内科などを受診
まず、今うつ病や適応障害などに近い症状を感じているなら、精神科や心療内科など、専門のクリニックに受診してください。
最近では心療内科がたくさん身近な場所に診察所を開いていますし、精神的な病への偏見も少なくなってきました。
勇気を出して受診をし、必要であれば薬をもらってください。
うつ病は早期に治療し始めれば、重くなる前に改善させることができます。医療の手をかりて、身を守ってください。
うつ病や適応障害の初期症状に、不眠が見られることが多いですが、不眠を放置すると、いよいよ深刻なうつ状態に発展していきます。
早めに医師に相談することで、睡眠薬などを処方してもらえます。
こういった薬を利用して、きちんとした睡眠リズムを付けておくことが、うつ病の初期段階では本当に大事です。
また、後述しますが、休職制度を利用して一定期間休むことになった場合は、必ず医師の診断書が必要になります。
そのため、自分の主治医となるメンタルクリニックをあらかじめ探しておくと、今後のためにも頼りになります。
加害者から距離を置かないと治らない
職場いじめやモラハラ・パワハラが原因の心の病気は、加害者から距離を置かない限り治りません。
あるいは、加害者が変化して優しい人になるなどの奇跡が起こらないと、症状は改善しないでしょう。
ただ、人は簡単に変わるものではありません。
加害者の人格を変えようと努力するより、あなたが自分の身を守るために加害者から距離を置く方法を考えた方が良いです。
できるだけ休息し加害者のことを考えない
うつ病や適応障害の治療は、休息と服薬が中心です。
まだ治療にまで至っていないとしても、休息をとることは大事です。
できるだけ休日にはゆったりする時間を見つけましょう。
そして、いじめの加害者のことを考える時間を極力減らすようにしてください。
身体の休息も大事ですが、心の休息が一番重要です。
いじめの加害者について、「なぜあんないじめをするのだろう」「許せない」「仕返しする方法はないだろうか」と考えれば考えるほど、あなたの心は疲れてしまいます。
仕事に関係のない時間は、いじめの加害者のことは心から締め出すように心がけてください。
いじめを上司や会社に相談できるか考える
今受けているいじめ行為を、加害者に直接「あなたのやっていることはいじめです。やめてください」と言える人はほとんどいないのではないでしょうか。
そうでないからこそ、抑うつ状態になっているのだと思います。
しかし、我慢しているだけでは、いじめはエスカレートしていきます。
そこで、会社内で相談できる人がいるか検討してみてください。
いじめの加害者の上司など、影響力のある人がいれば、「いじめを受けているが、何とか仲裁してもらえないか」と相談してみるのも一つの方法です。
相談する相手の対応力が良ければ、いじめ加害者が行為をやめることも期待できます。
ただ、職場いじめをやめさせるというのは本当に高度な対応力が必要です。
下手に相談したためにまずい対応をされてしまい、逆にことが荒立ったというケースもあります。
まずは、あなたの職場内の人間関係を観察してみて、あなたの味方になってくれ、対応してくれ、かつ、加害者への影響力がある人がいるかどうかを考えてください。
そういう人がいるのであれば、いじめを受けていることを相談すると良いです。
ただその際は、感情をあまり交えずに事実だけを伝えるようにしてください。さらに、あなた自身がどうしてほしいのかも具体的に伝えます。
例えば以下のような感じで相談してみましょう。
いじめの事実)
私は、〇月頃から、〇〇さん(加害者)から無視され続けています。業務に必要な連絡や相談をしても「そんなこと私に聞く必要ある?」「いいかげん、自分の頭を使わないと。もしかしてバカなの?」という返事が返ってきます。このままでは、仕事に必要なコミュニケーションが取れず、業務に支障が出てしまいます。
具体的に何をしてほしいか)
〇〇さん(加害者)に、仕事に必要なコミュニケーションだけはとってもらえるように、仲裁してほしいと思います。
いじめの事実)
〇〇部の〇〇さんと〇〇さん(加害者)から、暴言を受けています。
たまに、頭を小突かれたり、聞こえるように悪口を言われたりすることもあります。
職場でこのように暴言を受けているため、仕事に集中することができません。
気分もすぐれず、会社に来るのは本当に辛い毎日です。
具体的に何をしてほしいか)
話しを聞いて欲しかっただけです。
特に今のところ何かして欲しいということはありません。
しかし、〇〇さんたちからのいじめやいやがらせがあるということを報告しておきます。
また、今後〇〇部で私が被害に遭わないようにするには、どうしたら良いか助言をお願いします。
社内に相談できる人がいるというだけでも、安心感が出てきます。
相談する際は、その人に何をして欲しいかを具体的に決めてから相談しましょう。
そうすることによって、相談された方も動きやすくなります。
必要な助言が欲しい人は、そのように頼んでみましょう。
異動が可能であれば申請
職場いじめの加害者から離れられる方法の一つに異動が考えられます。
異動を申請することで、別の部署で働くことができるのなら、申請してみましょう。
上述のように、上司や会社側の担当者に相談する際に、具体的にして欲しいことの一つとして「異動」をあげてみましょう。
異動ができるかどうかは、その会社の人員体制や社内制度によって違うため叶うかはわかりません。
ただ、会社には安全配慮義務という労働環境を整える法的義務があるため、「職場いじめがあるため、異動させてほしい」という要望が正式に労働者側から出てきた場合は、できる限り対応しなければならないということになっています。
会社の安全配慮義務とは
会社は、本来、社員が心身共に安全に働けるように配慮しなければならないという義務があります。これを、安全配慮義務といいます。
職場いじめは、被害者にとって、安全に仕事をする権利を奪うものです。
極端ないじめであれば、社員が重度のうつ病に罹る可能性もあります。
そのせいで最悪な場合自殺事故に発展することすらあるのです。
そのように、いじめは労働者の生命や身体の安全を脅かすことが十分に考えられます。
そのため、会社側には、もし職場いじめがあるなら何らかの措置をして、安全に働くための配慮をしなければならないのです。
勇気を持って会社の人に相談することで、職場にいじめがあることを申告すれば、会社には安全配慮義務があるわけですから、職場環境の改善をしなければならなくなります。
しかし、いくら法的には決まっていたとしても、会社側は職場いじめを「社員同士のトラブル」としか捉えないのが実情です。
職場いじめの事実を会社側の誰かに相談することによって、会社側の安全配慮義務を意識させて改善に持ち込むのも一つの手です。
ただし、現状ではあまり期待できないことが多いと思います。
いじめの証拠だけは取っておくこと
職場いじめの証拠だけは、できるだけ在職中に取っておくようにしましょう。
いじめの証拠となるものは、例えばボイスレコーダーで嫌がらせを受けている様子を録音しておくとか、嫌がらせメールのコピーなどです。
また、いつ、だれに、どのような悪口を言われたのか、メモをしておくだけでも証拠として扱ってもらえることもあります。
無視されているなどの「不作為のいやがらせ」などは、なかなか証拠物が集まらないので苦労すると思います。
そんなときでも、いつ、だれに、どのように無視されたのか、そのためにどういった業務上の悪影響があったのかを、記録に残しておきましょう。
これだけでも立派な証拠となることがあります。
いじめは、モラハラやパワハラなどともいわれていて、証拠があれば後から加害者を訴えることができるかもしれませんし、会社側の安全配慮義務違反を訴えることも可能になります。
うつ病などに本格的に罹患してしまったら、治療費などお金がかかります。
損害賠償請求をあとから申し立てる場合は、しっかりとした証拠がないと裁判では不利になります。
また、裁判ざたにまではしなくても、もし辛くなって退職した場合に、いじめが原因で辞めた人は、雇用保険の失業手当で優遇されることがあります。
そのための審査に、「職場いじめがあった事実」を証明する証拠物が必要になります。
今はまだ、退職まで決意もしておらず、加害者や会社に対して訴えを起こすつもりなどない人が大半でしょう。しかし、証拠物はあった方が後から有利になります。
さらに、「いじめの証拠を握っている、後から訴えようと思えばできる」と思うことで、心に余裕ができます。
重大な決断は保留する
うつ病や適応障害の症状がある人は、その最中には重大な決断をしてしまってはいけません。
精神が参っている状態の人は視野が狭くなっていて、考えることがすべて悲観的になっています。判断力も極端に低下しているのです。
そのため、「辞めるしかない」「加害者に仕返しするしかない」などといった重大な決断は、保留にしてください。
そのときは本当にそう決意したとしても、時間が経過して症状が改善すると「なぜ辞めたんだろう」「大騒ぎをしてしまった」と、悔やむことがあるからです。
症状が改善するまでは、退職や加害者への仕返しだけではなく、離婚や引っ越し、借金など重大なことの決断を先送りしてください。
休む(休職)という方法について
うつ病や適応障害になりかかっている人に検討してもらいたいのが、会社を休むということです。
会社によりますが、休職制度があるなら、会社に籍を残しつつ仕事を一定期間休むことができます。
休職制度とは、労災(業務中の災害)以外の病気やケガで一時的に働けない場合に、しばらく休んで治療に専念し、その後に復職するという制度です。
ただし、休職制度があるか、またどのくらいの期間休むことができるかは、会社の就業規則の定めによります。
就業規則に休職制度が定められていれば、この制度に則って、ある程度の期間休職することができます。
数日ではなく、数か月単位で会社を休むことができれば、加害者と顔を合わせることもないため、確実に心は回復するでしょう。
仕事のストレスとも一時的に離れることができ、職場いじめと共に過重労働など職場ストレスを持つ人には、ありがたい制度だと思います。
必ず休職できるとは限らない
ただし前述のとおり、休職制度を持たない会社もあります。
そのため、申請すればだれでも休職できるとは限りません。
あなたがもし休職をしたいと考えているなら、まずは会社の就業規則を確認してください。
就業規則の休職の項目には、大体以下のような形で定められています。
第〇条 (休職の事由)
次の場合に該当するときは、所定の期間休職と扱いとする。 1、業務上によるものではないケガや病気によって出社できないとき 2、自己の都合により、引き続き〇日以上欠勤するとき 3、刑事事件に関して逮捕、拘留等、身柄を拘束されて出社できないとき 4、特別な事情があって、会社が休職させることを適当と認めたとき 第〇条 (休職の期間) 休職の期間は以下のとおりとする。 前条第1項の場合:勤続1年以上5年未満の者〇日以内、勤続5年以上の者〇日以内 前条第2項の場合:*************** |
このように、就業規則に「休職」という項目があれば、その内容をしっかり確認してください。
休職制度はその運用が会社によりまちまちです。
休職を認める対象が正社員だけなのか、あるいは全社員なのか。
また、勤続年数によって与えられる休職期間に違いがあることが多いため、自分の勤続年数であればどの程度休むことができるかも確認しましょう。
休職制度がない場合
もし、今の会社に休職制度がないのであれば、長期間にわたって休むことは難しいと思います。
休職制度というのは会社側に設ける法的義務はありません。
休職制度というのは、病気になって働くことができなくなった社員を、一定期間の間、解雇しないでおくという福利厚生的な制度です。
そのため、「休職制度がない会社は違法だ」「病気になっているのだから治療期間は休ませる義務がある」と主張することはできません。
休職中の傷病手当金とは
休職制度があったとしても、「ノーワークノーペイの原則」、つまり、働かない期間は、賃金を支払わなくて良いという労働法の規則から、休業中には給料が支払われないのが一般的です。
そのため収入に心配があり、休職したくてもできない人がいるかもしれませんが、健康保険から「傷病手当金」という休業中の給与補償を受けられます。
病気やケガの治療で会社を休んでいて、休んでいる間に給与が支給されないときに、所得の一部を保険給付として支給してもらえるという制度です。
支給される額は、各自が納めている健康保険の保険料により異なりますが、保険料を計算するために設定されている「標準報酬日額」の3分の2と、法律で決められています。
つまり、だいたい平均月給の3分の2が支給されるということですから、それほど収入減を心配せずに療養することができるはずです。
受給できる期間は、最長で1年6か月です。
傷病手当金の受給からうつ病の履歴はばれない
もし、休職制度があるため、傷病手当金を受給しながら療養したい人はぜひそうしてください。
しかし、「傷病手手当金を受給すると、うつ病であることが公に記録される」「転職時に提出書類でばれる」「社会保険事務所などで照会すれば、誰でも受給履歴を見ることができるからうつ病の履歴がばれる」と心配して、受給をひかえる人がいます。
このようなことは全くの誤解です。
まず、傷病手当金の受給といった機微な個人情報が、社会保険事務所などで照会できるはずがありません。
また、たとえこれから転職活動をするにしても、転職先に提出する書類に過去の傷病手当金の受給歴を記入するものはありません。
源泉徴収票を提出することになるかと思いますが、源泉徴収票には傷病手当金の受給額は書かれません。傷病手当金は非課税であり、源泉徴収票に書くべき所得ではないからです。
あなたが自ら「傷病手当金を受給していました」と告白しないかぎり、転職先であれ近所の人であれ、受給履歴がばれることはありません。
「加害者を訴える方法」を考える気力がある場合
職場いじめの被害にあってうつ病らしき症状があるものの、加害者を訴えたり仕返しをしたりする気力がある人もいます。
ただ、このようなエネルギーがあるということは、まだ厳密な意味ではうつ病には罹患していません。
うつ病に罹ってしまうとそのような気力がわいてきませんし、むしろ「自分が悪かった」「自分に能力がないからいじめられた」といった自罰感(自分を責める気持ち)に苦しむからです。
加害者を訴える方法を考える気力がある人は、まだエネルギーがあるということですが、加害者への報復で力を使うよりも、転職をするなど、新しい職場でやり直す方向で努力したほうが生産的ではないでしょうか。
本格的な心の病になってしまうと、加害者への仕返しどころか、自分の日常生活にまで支障が出てしまいます。
そうなる前段階で気づいているのであれば、なるべく症状を悪化させないように身を守りながら、次こそ平穏な職場で働けるように、前向きな努力をした方が良いと思います。
職場いじめは、本来会社側が積極的に防止しておくべきものです。
しかし、それを放置されている会社というのは、労務管理の手法を持たず人材を上手に活用できない会社です。
そのような会社でずっといじめに耐え続け、本格的なうつ病を発症してしまう前に、少しつづ新たな会社へ移動する準備を始めるのも一つの方法です。
もちろん、抑うつ症状がひどいときや、不眠、集中力や判断力が乏しいときには、重大な決断はしないようにしてください。
ただ、職場いじめを耐え続けるだけではなくて、今の会社以外にも働く場所があることを知るだけでも、視野が広がり、心の余裕が出てきます。
職場いじめをなくそうと努力したり加害者に仕返ししたりする方法を考えるより、自分にとって一番適した職場を探し、前向きな気持ちで日々を過ごして欲しいと思います。